GVVC Weekly – Week 316

Nick Storring – Roxa I

トロントのコンポーザー、ニック・ストーリングが3月にリリースする新作アルバムからオープニングトラックとなる最初の先行曲を公開。
これは素晴らしいですね。パーカッシヴ・アンビエントというのが適切なのか、考えようによってはポストロックでもいいかもしれないですが、ともかく膨大なパーカッションで装飾され、プログレッシヴに展開していく横に広がったインスト楽曲でCarlos Nino諸作あたりと共鳴するようなテイスト。
初期のBattlesがやってたようなルーパーディレイのフレーズなんかも出てくるし、アンビエントとその対局にあるはずのリズム遊びが完全に共存していて、かつエクスペリメンタルと言うにはウォームかつ柔らかすぎる。ブラジリアンって雰囲気もあるけどガムランなんかも使ってまして厳密には無国籍トロピカルなんですよね。なんでしょう、とにかく他にないような音楽ですよこれは。


cross record – Charred Grass

エミリー・クロスによるクロス・レコードの6年ぶりとなる新作アルバムが引き続きBa Da Bingより3月にリリースされます。
最初の先行曲のこちら、大幅な路線変更はないですが少しアブストラクト感が薄れ、従来のスロウコア~アンビエントフォークに軽いドゥームの要素が入ったメランコリックなサウンドはそのまま音像がよりはっきりと定まってきたような雰囲気で、強度のある明確なフックのフレーズ(サビ)も繰り返されるいかにもシングル向きのトラック。
これは今までで一番良いと思います。こう、そこそこ名のあるレーベルからリリースしていながらも、およそ音楽だけでは食ってないであろう人たちが5,6年とかに1回、実生活におけるかなりの犠牲を払いながらも必死でリリースする音楽って、そこにしかない味わいと深みがあって素晴らしいですよ。20代前半~半ばそこそこでは身に染みてはその意味はわからないと思うけどね。


Mumble Tide – MAWPAO

ブリストルのデュオ、マンブル・タイドが4月リリースのデビューアルバムをアナウンスし最初の先行曲をビデオ公開。昨年公開されていた単発シングルも収録されます。
以前リアルタイムで紹介した21年末リリースのEverything Uglyがデビューアルバムという認識でいたがあれはミニアルバム扱いらしい。インタールードなしのフル尺8曲ってLPだろと思うけどね。
さてオープニングトラックに配置された今回のリードトラック、インディフォークをベースにサックスとユルめのシンセで装飾されたトラックは二人編成らしくリズム組みはもっさり目のシンプル仕上げと基本的な路線は変わってはいない。でも少しローファイな雰囲気もあった部分が順当にブラシュアップされ質感はよりリッチに、しっかり強度のあるサウンドに進化。正直、前の音像の方が個性的な気がするけど、これはこれで悪くないし相変わらず胸を打つこのボーカルと若干キツめの歌詞が素晴らしい。謎のピッチシフトもギミックとして効いてる。
それにしても、ブリストルって聞いて直ぐに連想する諸々のイメージと全く違うところで鳴ってる音楽でそこのコントラストもなんか面白いね。


Tamino – Sanctuary feat. Mitski

エジプトミックスのベルギー人SSWタミノが3月にリリースする新作アルバムからミツキを客演にフィーチャーした先行楽曲を公開。
何年も前からとっくに認識はしており出す曲全て確認はしてましたが、掲載するのは初だと思います。レディヘの影響受けすぎなのはご愛嬌として、こういうサウンドで歌唱をドラマティックに盛り上げていく男女デュエットって話になるとThe Swell Seasonみたいな印象になり、かなり大味ではあるのですが、Mitskiがちょっと自分の曲では見せないような表情を見せてて面白いのと、ベタな音楽性をなんだかんだタミノ君のボーカルのカリスマ性で補っててギリ聴ける。
しかし、なんかどことなく風情がJeff Buckleyを想起させるよなぁと思ってたら皆、思うみたいで、ベルギーのジェフバックリーと言われてるみたいです。父方の祖父がエジプトの有名なシンガー・映画俳優だそう。

今週のLP/EPフルリリース

tunng – Love You All Over Again (LP)

少し前にデラックス再発された1stから20周年を記念して?当時のオリジナルメンバー全員参加でのプロパー新作はLPとしては8枚目か9枚目くらいでしょう。メインの人の課外活動でローラ・マーリングとのLUMPも記憶に新しいですし、キャリアの割に長期間のブランクはないのかもしれないけど、印象としてはやはり最初の3枚がダンゼン強い。
あの当時ってのはね、広義のエレクトロニカがかなり人気で勢いがあり、それほど電化サウンドでなくてもエレクトロニカに分類されたりしがちだったもんで、派生としてフォークトロニカって言葉が出てきた頃なんです。で、わかりやすくアーシーでフォーキーでちょっとアブストラクトなトラックっていうイメージもあり、タンはけっこうフォークトロニカ最右翼的扱いをされてたのね。そしてようやく今作の話になるわけだけど、コレはまさに1st、ないし初期3枚の遅れてきたブラッシュアップ版で、かなり当時の印象そのままのバランスの音楽をやってる。より録音やサウンドに生々しさが増して洗練された2025年アップデートバージョンで、当時のメンバーがいい関係性のまま揃ってるからこそできる芸当だと思うよ。それってかなり尊い事なんじゃないかね。
蓄積された印象をリセットしてゼロから記述するとなれば、ちょっとだけ音響派・チェンバーポップなんかも入ってるインディフォークって感じで、どちらかというと暗めだけどギスギスは全然してない、ジェントルで内省的なアースカラー中間色の音楽ってとこかな。生演奏寄りの宅録プロダクションが当たり前になった今現在の感覚でいくと実際問題、エレクトロニック成分はほとんどない、3%くらいっすね。相変わらず地味だし、フックのあるフレーズとかもほぼ無いんだけど、すごくいいんですよ。