トロントのSSW、ジョージア・ハーマーが2022年のデビューアルバム以来となるプロパー新曲をリリースしビデオ公開。アルバムのアナウンスなどはなく単発です。
サウンドに変化はなく、前作の路線を完全に踏襲したものではありますがこの人の特色である部分を抽出したような実に出来の良いトラックで、単体で出すのも肯けますし実際、これ次のアルバムに100%収録されるでしょうね。実質的にはリード曲でしょう。
彼女はシンガソングライターといっても極めて弾き語りに近しいタイプではなく結構バンドアレンジに凝ってるタイプで、まあまあ賑やかなギターワークにメロディもなかなかしっとり、やり過ぎない程度に感傷的だったりと決して悪くない意味であっさりしてない。とはいえメジャー予備軍みたいな雰囲気は一切なく正真正銘インディの人がやる節回しと音の質感ですし、とっても聴き易いんです。Fenne Lilyとかに少し近いんですが、あそこまでの繊細さではなくもっと親しみやすいカンジかな。
Patrick Wolf – Dies Irae
パトリック・ウルフがプロパー新作のフルレングスとしては実に14年ぶりのLPをアナウンスし先行曲を公開。
直近のLPがアコースティック再録ベスト盤みたいなやつ(個人的にはそれが一番好き)でしたのであれをカウントするとあと一年ブランクが短くなりますがそれにしても久々にメディアで彼の名前を目にしました。この間にアルコール依存、破産、イタリア旅行中に血塗れになるレベルの引き逃げされる等と散々だったみたいですが、気合いの復活です。
サウンドの方ですが基本的には変わってないですね。ちょっとバロックポップって言ったらいいのか、クラシカルやゴスの西欧貴族趣味みたいなのが多分に加味されたナルシシステッィクなALTポップなんですが、そこはかとない情けなさというかちょっとシュールで道化な愛されキャラなのが強みになってる面白い人です。今回はだいぶご祝儀掲載ですが、まぁぜんぜん聴けるし過去に普通に好きな曲あるのでまたまだ頑張って欲しい。
JJULIUS – Dödsdisco
ヨハネスブルグの男の子によるソロプロジェクト、ジュリアンが3月にDFAからリリースする新作アルバムより新たな先行曲を公開。
思い起こすのはSincerely YoursやServiceレーベル周辺にSibille Attar、最初期のLykke Li(1st以前)などで、気の抜けたお手製へっぽこスウェディッシュ宅録ポップの系譜に連なる理想系のサウンド。細かいSEやお遊びサウンドもさることながら意外と音数の多いアレンジで、ただただ圧が控えめなだけでいろいろやってる。これは全然ショボくないし、ちょっとインディダンス魂も感じてDFAというのも納得だね。一時期ならキツネのコンピにほっこり枠で入ってたカンジ。
しかし、日本人がどうしても歌謡曲じみてきてしまうのと同じような宿痾で、たぶん本人にそんな意図などはなく北欧の都市部の人が歌モノやると、ほんのり洒脱におしゃれになってしまうのは一体なぜなんだぜ?現地語ですのでDancer…以外は何言ってるか全くわかりません。
今週のLP/EPフルリリース
FACS – Wish Defense (LP)
素晴らしい。先行トラックの時点でかなり期待してましたが全体でも間違いなくバンドの過去最高傑作でしょう。もうアルビニの遺作うんぬんはいいかな、正直それ忘れてて、リリースに際しフルで聴いて音でハッとした感じですがこの生々しさっていうのは言うに及ばす。往年のポストハードコア名作みたいな響きで音自体のカッコ良さだけでも聴かせられる音楽。
アレンジ的な面では先行曲の時点でも言及したけど、ここ数作アブストラクトに流れてたぶん勢い一転し身体性がアップしたアグレッシヴな路線でバンドバンドしてるのが実によろしい。90 Day Men路線(本人だから当然)のポストロックから昨今のダーク・ポストパンク勢とも共振しそうなテイストもちょっと入ってるけど、かといって若くもないですし性急な部分はなく、いぶし銀というにはフレッシュという絶妙な塩梅のアンサンブルです。ミニマリストな印象もあったが意外と空間を均等に埋めてくるタイプで、ここ薄くなるかなというところではベースがガッツリ歪ませたりと抜き差しの巧みさでバランスを常に調整する全パート完璧な3ピースの理想系。全員熟練の名手とはいえこれオーバーダブ一切無しでやってんだったらすごいな。絶対に真似できない代物。
いやしかし、Disappearsの時点でこの路線を期待してたんだけど巡り巡ってようやくやってくれた感じかなと。ライブ観たさでは現行全バンドでトップ3に入るしこれはヴァイナルで欲しいね。重ね重ね、音が良過ぎる!
HERE – The Totality Of Existing Things (LP)
アンビエントと言ったらそれまでだけど、一味違うんです。とはいってもウチで度々取り上げる自然派のナチュラル系アンビエントではなく、どちらかというとシンセティックでetherealなタイプなのでちょっと変わり種かな。
最大の特徴は美麗ポストロック的な雰囲気を強く持ってるところで、ニューエイジはなくチルウェイヴは少しだけ感じるみたいな加減。微妙にクラシカルな趣が良くて、悪い意味のインターネット臭さを感じないのが評価ポイント。M-1を除いては完全ビートレスなんだけどレイヤリングの綾にちょっとダイナミックさを感じて、ひたすらにドローンっていうようなのっぺりした印象はなく聴き易い。長尺の曲もなくてコンパクトなトラックが続き、あっという間に終わります。ちょっとだけ歪ませたレイヤー入れたり、薄く声とか入ってきてもいいかなと思うけど、まだまだいじる余地を残してるし、なんだったらドラム入れてしまったルートも聴きたいかな。
身も蓋もない名前と、あまりにも大きく出過ぎたアルバムタイトルも面白い。なお、デジタルオンリーではなくヴァイナルもカセットもなしでフィジカルはCDだけっていう謎リリース。