GVVC Weekly – Week 322

Slow Mass – Hogtied

シカゴのスロウ・マスがLandland Colportageから5月にリリースする新作アルバムより最初の先行曲をビデオ公開。
前作のデビューアルバムでは曲によりもっとパンクやグランジ的なニュアンスもありましたが今回は一気にクリーンに洗練させてきており、このトラックに関してはキレイ目なSSWバンドをミッドウェストエモ系のポストロックに大胆に寄せたような、しっとり歌唱にドタバタなバンドアレンジメントというあまり見かけないバランスのサウンドになっていて実に面白いです。
おそらくコアメンバーはベースボーカルの女性とたまに歌ってる方のギターの男性だけで、あとは各地に流動的なレギュラーメンバーが5人くらい居る上にもっと単発のゲスト陣がさらにクレジットされてるという二段構えになってましてそのへんもポイントかなと。この曲だけに関してはFinomのMacie Stewartがコーラスで参加。目立つところでは他の楽曲ですがTera MelosのNick Reinhartがギター参加しているものもあり、納得な人選ですね。


Lucy Gooch – Like Clay

UKノースヨークシャー、ヨークのSSW、ルーシー・グーチがFIREからリリースするデビューアルバムより最初の先行曲を公開。
LPではオープナーに配置されているこちら、大まかな方向性としてはエクスペリメンタル・アンビエントフォークなんですがGrouper路線ではなくてもっとモダンでドリームポップとかにも近いタイプのものです。
何か変な話、日本にも居るというか、青葉市子とか、どうかした時のSCLLとかもやるようなポストロック枠とも解釈できるサウンドで進行など少しわかりやすくセンチメンタルなのですが、Nico Muhlyよろしくめちゃコンテンポラリーな声楽サンプル使いで陳腐化を回避してます。音像はとてもきめ細やかで美しいですし、作品の全貌が気になりますね。


fantasy of a broken heart – We Confront The Demon In Mysterious Ways

ブルックリンの男女デュオ、ファンタシー・オブ・ア・ブロークン・ハートが新作EPをアナウンスし最初の先行曲を公開。
確か去年もデビューアルバムからの先行曲を紹介した気がする。なんだかこの人たちは楽曲に非常にクセがあって、ドラッグのような中毒性を持つ危険な宅録ポップをたびたび展開。今回の楽曲はイントロからひたすら繰り返し推しまくるメインテーマがコーラスでは声とギターでユニゾンしまくるスーパー必殺フレーズなのと、アウトロのサイケなインストパートも印象に残るナイスアレンジで素晴らしい。
メロディのぶっ飛び具合はなんかZach Phillips諸作っぽさもあり、男女ツインボーカルなのに男の方も声がちょっと細いというかウィスパーぎみに歌うタイプな上に、二人とも再現性無視で自分の声が途切れる前にさらに自分の声重ねたりもしてくるもんで聴いてて目が回るんだよね。ともかく、この先も注目に値する曲者です。


Frànçois & The Atlas Mountains – Slow Steps in the Snow

これ実はこないだ出たアルバム収録曲なんですが、その英語バージョンが遅れて公開されました。
LP中でも先行曲を差し置いてこれが一番スタンドアウトのトラックでしたし、この扱いも納得ですね。
小気味良く可愛らしいインディポップを圧弱めにさらっと演奏したトラックの上で、ちょっと薄めのメロディをフラフラと歌ってるだけで超絶にアンニュイになるこの気の抜けたボーカルは本当ズルい。
しかし、これ聴いて改めて思うのでは、どんだけフランス訛りでも、英語で歌ったほうが良いと思う。

今週のLP/EPフルリリース

LAKE – Bucolic Gone (LP)

もうなんだろ、20年近くはやってるはずで、何年かおきにコンスタントにアルバム出してるイメージだけども、今回が一番良くないですかね?ここ10年前後の数作は一通り聴いてるんだけどダントツで今回がベスト。そんなことあるんだね。
もちろん基本は変わってない、彼らはこれまでも大きく変わったことはないはずだけど、なんか…サウンドが若くないですか?今風というか、失礼だけどいつもちょっとオッサンオバハンがやっとる音楽やなぁという印象が強い(必ずしも悪い事ではない)んですが、今作は日本で言うネオアコ的な雰囲気や枯れ系のソフトポップ~サイケとかその辺の要素が少な目でもっとモダンなアレンジが多いんで、比較的フレッシュなインディに聴こえる。ボーカルと歌唱は平常運転そのまんまだけどね。
その辺のコントラストで実際、熟練の落ち着きがしっかり粘りとコシを生み出し、最高なバランスのアウトプットになってるんでしょうか。なんかまあぁ、Nicholas Krgovich周りとか、あとほんの少しだけテクスチャーや音作りにポストロックを感じる曲面があり、Owenとかにも近い音像になってる瞬間があるように思う。ともかく、いわゆるインディポップという感じではないんだよね。際立った強烈なカラーのない音楽性ではあるけど、実に味わい深い、いぶし銀のLAKE印シグネチャーかな。
ちなみに曲単体では先行でも紹介したM-10が圧倒的に素晴らしいけど、コレだけ純然たる新曲ではないしやはり作った時期がまるで違うせいか流れで言ったら少し浮いてるのが悩ましい。だからこそ最終トラックに配置してるんだろうけども。


Eilis Frawley – Fall Forward (LP)

完全にノーマークでしたがこれは面白いですね。ベルリンを拠点とする本業はドラマー、パーカッショニストのオーストリア系ミュージシャンによるソロ作で、Anikaなどでも叩いていた経歴のようです。
ほぼ全編スポークンワードのポストパンク〜洒脱系のアートロックっていう感じで、基本的にライトウェイトな音作りと空間を生かしたアレンジメントで非常に垢抜けたサウンド。音大出てるっぽく、それも納得のコンテンポラリー感があって、いかにもDIY、インディという雰囲気が強くはない。それでいてオーバープロデュースでもないしメインストリーム路線でも決してなく紛れもないオルタナティブ音楽なので、その辺が非常に良好なバランス。
あとはドラマーだから当たり前かもしれないけど基本的に生演奏、生グルーヴがベースとなっているにもかかわらず上モノのテイストや音色選びがちょっと軽いニューウェイヴ風味だったりするし、ちょいちょい出てくるトランペットのせいかちょっとだけジャズも入ってるもんで、エレクトロニックではなくなってポストパンク化したJenny Hvalみたいな瞬間も。
カバーアートのイメージは正直メチャクチャ内容に合致してます。これはね…敢えて言おう、なんかオシャレな音楽。とても自然体だし狙いすましたようないやらしい感じがない。これもっとちゃんとメロディを歌ったらどうなるのかな、それも聴いてみたいけど。いや、これはイイもん見つけたわ。