GVVC Weekly – Week 335

Georgia Harmer – Eye of the Storm

トロントのSSW、ジョージア・ハーマーが引き続きArts & Craftsからの2ndフルアルバムをアナウンスし先行曲をビデオ公開。昨年から今年にかけて単発で公開してきていたシングル3曲も全て収録です。
結構頻繁に紹介している彼女、LPのタイトルトラックとなったこちらはまたしても良曲です。前作からしてもそんな代わり映えはしないんだけど、何時もついつい拾っちゃうのはまあ歌唱と声そのもの共にボーカルが素晴らしいというのは大前提としてあるが、バックバンド、特にベースとドラムがそこそこ自由にやってるというか、SSWに寄り添いすぎてないライブバンド感のある演奏で程よくラフなテイストを絶妙に付与してる所がポイント。
どこまで主役本人の意向、調整によるこのアレンジなんだろうな、本当に気になる。そこ特にコントロールせずにアウトプットが偶然これなのか、全て自覚的なのかで評価が変わってくるからな。
あと記譜上の点だけでなく表層のサウンドにしても。別にハイファイなわけでもとんでもない職人芸の深みがあるわけでもないんだけど、単純に楽器隊の鳴りと全体のミックスバランスがベストに感じる。歌に引っ張られすぎてないし、ナチュラル範疇にとどまりつつもしっかりパンチのあるさじ加減。実に肌に馴染むし、聴き易いっす。


Water From Your Eyes – Life Signs

ブルックリンのウォーター・フロム・ユア・アイズが引き続きMatadorからとなる新作アルバムをアナウンスし最初の先行曲をビデオ公開。
いや、前も前でイイんだけど、こりゃ更に劇的に良くなったね。音楽性のベクトルはそのまま、より一層バンド感のある演奏・サウンドに進化。何かこじんまりした宅録から一気にフルバンドになった位の変貌っぷりで軽く感動すら覚えます。となると必然的にグランジ感はアップし、リード曲だから余計にそうなのかもしれないけど構成も幾分キャッチーになってきているようで、軽くポップですらある。要所で荒れ狂いつつも、そこはかとなく線は細めの印象に仕上げ贅肉を削ぎ落とす方向性の特徴的なアレンジはそのままに少しだけ漂っていたキワモノ臭は完全消失。トータルではインディロックと評してもいいような佇まいに。
正式メンバーが増えてるわけではないみたいだけど、本体も男の子のソロも成功して、クリエイティヴのプロセスの時点で作品出した後のツアーやちゃんとしたライブを最初から意識するようになったんだろうなというのが容易に想像できる内容で、全貌が楽しみですね。雰囲気的には前作超えて来そう。


Ethel Cain – Nettles

タイトルやアートワークなどのアナウンスだけされていたエセル・ケインの新作アルバムから遂に最初の先行曲が公開です。今年、先んじてリリースされていた作品はスピンオフ的な番外編だったのでプロパーのフルアルバムとしてはこれが正式にPreacher’s Dauhgterに続くモノになりますかね。
内容の方ですがしっとりとした長尺のインディアメリカーナ・SSWオルタナカントリーで、以前からの特徴であるほとんどメインストリーム崩れと言っていい、やや大味でベタなアレンジメントとスロウコア路線のような感覚が同居した不思議なテイストも健在なのでまさに前作から地続きといった感じ。クワイエットに始まりますが8分かけて徐々にスケールが広がり、最後はなかなか雄大にビッグな響きまで持っていきますが、大仰にはならず、嫌味なくスムーズな展開ぶりです。
しかし、ベクトルはやや違えど、どうしても本人のキャラクターが強烈という部分でも外連味のなくなったアーシーなLana Del Reyみたいなイメージをしてしまう。声は全然似てないけど。まぁ、このトラックだけ聴く分には前作よりも好きです。ジャケは前のの方がイイかな。


Purity Ring – many lives + part ii

ピュリティ・リングが2022年のEP以来とな単独のプロパー新曲を2曲リリースし、二つがシームレスにつながったジョイントビデオも公開。
内容の方はというと、これぞセレスチャルと言いたくなるヘヴンリーでニューエイジなシンセポップになってますが、ドリームだったりのナイーヴさは然程なく、もっと間口の広い、メインストリームのダンス寄りエレクトロポップスの流れにアプローチできるような良い意味での強かさを感じさせるパワフルで完成されたトラック。
少しR&B風の節回しを差し込んでくる歌唱スタイル&シグネチャーサウンドになっている特徴的なボーカル処理で相変わらず独特のテクスチャーは唯一無二。今回は特に全ての要素がチャラめの軽いブレイクビートともマッチしてほぼ完璧な仕上がり、曲単体でみると過去最高傑作かもしれません。本人たち的にも納得の会心作なのではないのかな?
この人たち、もう15年くらいはやってるはずだし、出だし当初のブログ全盛期のバズから鳴り物入りでの4ADデビュー、直近のEPから自主落ちといろいろあるけど大きくブレることはなく、とはいえ多方面から手放しの絶賛、文句なしで認定された圧倒的な名盤みたいなものは一つも出してないからそんなに大成できなかった方だとは思うんだけど、これ聴くとやはり本物だったんだなと改めて感じさせる。好みとか超越した部分で実に素晴らしいし、過去作振り返りたくなるレベルの一発ですこれは。
ちなみにこれゲームのサントラとかコラボではなく、こういうミュージックビデオで仮想のゲームってことですね。メチャクチャ合ってますけど。

今週のLP/EPフルリリース

lucy gooch – Desert Window (LP)

先行のM-1が良すぎて紹介したと思う。その期待をさらに超えてくる程ではなかったが十分及第点。
一言で片付けるとアンビエントフォークになるか。ジュリアナ・バーウィックとジュリア・ホルターを混ぜてもう少し俗世寄りに、スノビズムを緩和したような方向性で、メロディや進行など比較的わかりやすく聴き易い、良い意味でこういう音楽の入門向けなライトな好調整。
前も書いたけどキレイ目のポストロックにも感じられ、更には音の洪水で圧倒する局面もあるし、そこそこギターも主役級な扱いなもんでシューゲイズのニュアンスも入ってると言える。vocal centricと自称してる通りでコンテンポラリーなボイスサンプルの使い方したり、サウンドアート的なコンポジションかと思わせといてその実、しっかり歌モノの風情を保っているのが素晴らしいかな。ともかく、この先も楽しみな内容でした。なんかね、日本でもウケやすいタイプだと思うよ。


Activity – A Thousand Years In Another Way (LP)

先行M-1とM-6を紹介したかな。LPとしても手堅く良い仕上がりで、これは紛れもなく傑作でしょう。
基本的にはアートロック。そこにクラウトの要素も強く、あとはダークポストパンクのフィーリングが支配的。それがゴスまではいかない絶妙なラインで、スモーキーにサイケだったりする時もあるって感じか。それぞれGroomsの時に片鱗は見せてたけど、ここで完全開花というか、今までの変遷も込みで納得の進化だよね。
このバンドになってから大きな路線変更はないけど、今回は特に楽曲の骨格がはっきりしてトラックごとの方向性がしっかり提示されてる上で、そのバリエーションにも富んでおり全体の流れもスムーズだからトータルで見ると文句の付けようが無い。ミックスも録り音もハマってるしどんどん聴き進められる魅力がある。
どうしてもケチつけるとしたら、ハズしが存在しないどこまでカッコ付けた音楽だなと。後はアートワークがかなり微妙だし内容に合ってないからそこだけは勿体ないね。しかし、これでフルレングスは3枚目だけど、完全にキャリアハイではないかと。この先これ以上を出せたら相当凄いけど、無くもなさそうな感触があって油断ならない。