GVVC Weekly – Week 352

Casey Dienel – The Butcher is My Friend

ホワイト・ヒンターランドことケイシー・ディーネルが再来週リリースの新作アルバムから新たな先行曲を公開。
訴訟の一件以降、心配してたけどWhite Hinterland名義は封印し本名名義に戻して(有名になる前にもともとは本名でやってた)アルバムを1枚リリースをしていましたが、あれから早8年、久々のプロパー新作です。アナウンスはもうとっくに済んでいて、2曲くらいはちょっと前に出てたのですが今回の楽曲が特に新機軸で面白いのでピックアップ。
おそらくこの人で、BPM速めにリズムマシン的ではないサウンドで広義でのロック風の8ビートを強く打ち出したトラックはキャリア初じゃないかと思う。結果、いつになく昨今のSSWバンド風な趣が出ていて今っぽくアップデート。正直、ちゃんとしたバックバンドの演奏とかではないのは明らかなので悪い意味で軽く、説得力は大いに欠けるんだけどアレンジ方向性と本人のボーカルの噛み合わせ的にはかなり正解に感じるし、生編成でしっかり作り込めばThe Weather Station的な路線に仕上がりそうで夢想してしまう。
Kairosはめちゃくちゃ好きな作品で今でも聴くし、完全に同世代なのと、例の一件が気の毒だったなというのもあり、ずっとかなり気にして見ている人の一人で、成功ルートからは外れててしまったのはもう仕方ないとしても、もう一度彼女が輝く瞬間が見たい。パーマネントのバックバンドつかないかなぁ…ツアーとかする気なさそうだし無理か。


plantoid – Dozer

UKの3ピースバンド(ライブは5人くらい居る)プラントイドがデビュー作に引き続きBella Unionからのリリースとなる2ndアルバムをアナウンスし最初の先行曲をビデオ公開。
前作は先行曲を紹介してたかな。基本はプログレって部分では変わっておらず、大胆にブレイクしてからまた盛り返すアレンジのクセもそのままですが、ちょっとジャジーで小綺麗な路線だったところをもう少しハード目に仕上げてきているようです。
この手合いにしては珍しくクリアーなボーカルをそこそこしっかり聴かせるスタイルで特徴づけられたサウンドはそれほどしつこくもなく、この位ならなんとか単にポストロックって片付けてもいいくらいの塩梅かもね。前も悪くなかったけど、これ聴く限りは変にジャズのニュアンス入れないで正解かも。


Twin Shadow – Half Asleep

今年すでに最新作LPをリリースしているツイン・シャドウですが来月に早くも次作LPのリリースをアナウンスし先行曲ビデオを公開です。
1stは今でもたまに聴くし本当に素晴らしいのと、同じようなバランスの音楽が意外と無くて間違いなく名盤なのですが続く2ndでもう既にちょっと怪しく、それ以降はもはやコメントができないレベルでずっと残念な気持ちでみておりました。でも長いこと休んだりはせず3~4年に1枚はアルバム出してた感じで、一応全部チェックはしてたけど、今回ホント久々にちょっと好きかもなという位のレベルの楽曲が嬉しい。
思うに、彼の音楽に関してはプロダクションはこういう軽めかつ音響深め一択で、印象が重くならないようにした方が良い結果になる。より洗練されてはいるが、全体的な音像がちょっとだけ1stをイメージさせるような雰囲気で、歌唱だけが比較的アッサリとした語り口に抑えられているかな。分類的にはなんだろう、この音作りだとベッドルームポップになるのか。
正直、あつらえはもう常にコレでいいから、とにかくいい曲書いて欲しい。初期の歌い込みと熱量に楽曲のクオリティがついてきてる爆発力をもう一度見たいです。


Just Mustard – ENDLESS DEATHLESS

ダブリンのジャスト・マスタードが今月末にリリースする新作アルバムから三つ目の先行曲を公開。本当はビデオで出てますがポリゴンショックを超えるレベルで目に悪すぎるクソ映像なのでこっちにしてます。
最初に出てたシングルも良くて確か紹介しましたが、今回はより一層、明確に新しい試みを行っている楽曲で、上モノの表面的なサウンドは平常運行のまま土台が完全に16ビートのいわゆるダンスロック的なリズム組みになっており、ともすればチープになりかねない疾走感を大胆に付与。この賭けが吉と出ており、曖昧でアトモスフェリックなテクスチャーと浮遊感にうまく溶け込んでチグハグさを感じない仕上がりになってます。
とはいえ先のリードトラックもなんですが今作は勢い、狙いに来過ぎてるようなきらいがあり、下手したらちょっと軽めのシューゲイズに近いくらいのある種チャラさを感じるかギリギリ怪しいラインにまで到達してるのが若干不安ですね。前作ではもっともっとメタリックで硬派な印象があったのですが、今回は違うなというのがハッキリわかります。

今週のLP/EPフルリリース

Rocket – R is for Rocket (LP)

アルバムのアナウンス前に最初に出てたシングル曲(M-4)が良くて紹介した。その後ポツポツ公開してた楽曲もまあ悪くないけど、代わり映えしないなと思ってた中での正規リリース、やや下がってた期待を上回る程度には好盤かな。
まず、マスタリング以外全て基本セルフ。レコーディングエンジニア、ミックスからプロデュースからギターのやつが担っていてそれでコレは中々凄いです。余計なことをせず、バンドの良さを中の視点から正確に直球に伝えることだけ心がけたのであろう事が痛いほど伝わってくる真摯なサウンド。リアリティがあるし生々しい。
音楽性的なところでは今時珍しい混じりっ気のない90年代風オルタナロックで、エモやアメリカーナもしくはその両方が入ってたり、はたまたノイズロック寄りだったりという色付けがもはや当然のようになっている昨今、逆に異質。空間系も薄いんでシューゲイズとかにも振ってない。ほんとオルタナとしか言いようがないのと、ベースボーカルのカリスマ性が最大の武器な点も様式美に合致。見た目の雰囲気もさることながら、無二というほどの個性はないものの程よい甘さとダウナーさを同居させた必要十分ないい声。
当然リズム的なところの面白さはないし、アレンジも抜き差しが少なくて一本調子なのでずっと聴いてるとダルくなってくるが、この手にしてはかなり曲も良いから覚悟していたよりかは場が持つ。しかしもう発展する余地があまり無くて、この段階でここまで完成させちゃうと伸び代的にこの次どうする?って感じだけどどうなんだろう。まあボーカルゴリ押しだけでいけるポテンシャルあるからひたすら自己模倣でも悪くないかもね。ともかく正直これは古来より日本ウケする路線のバンドだし、来日しそうだな。


Worthitpurchase – Worthitpurchase (LP)

意外ともうコレで3rdアルバム、にしてセルフタイトル。今のとこデジタルオンリーでおそらく自主です。2023年と2024年に1曲ずつ出してるシングルも収録してるんで、とんでもなく長いリードタイムだね。特に2023年の楽曲(M-4)はその年の年末リストにも入選させたスーパー楽曲で、いつ聴いても素晴らしい。
内容はいわゆる男女デュオのベッドルームポップという感じで音楽性的には初期から変わっていないと思うけど、洗練はされてきてるというか独自の深みみたいなのが増してる。印象そんな暗くはないんだけど、ほぼ全編に渡り漂っているこの底無し沼みたいな、そこはかとない狂ったようなヤバさがどこからくるのか、おそらく距離が近いミックスのボーカルとその歌唱の語り口、ちょいちょい入るSE的な細かいサウンド装飾とかだとは思うけど、無力感、厭世感、ナムネス(Numbness)とかそんなイメージが湧く。
編成相応にこじんまりとしてはいるが、どちらかというとまだ外に開けたサウンドだしけっこう雑食性もありで聴いてて飽きないのと、この二人のツインボーカルの相性がすごく良いね。いやらしくなくて自然だしいい関係性なのが伝わってくる。距離感がいいのはアレンジもで、フォーク的な側面もあるはずなんだけど気怠い中にも全体的にリズムは強く意識されており、ビートの組み方も気が利いていて秀逸。
ライブではバックバンド入れたり人数増やしたりして最終的にはまた二人に落ち着いたりと色々試行錯誤してるみたいだけど、まだ定まってないみたい。なんかそれもわかるし、ライブではバンド化したいっていう意向なのも凄くわかる。基本的に楽曲が美しくて、媚びてないのに強度もアーティスティックさもちゃんとあるしで、もっと持ち上げられていいはず。投げやりなバンド名もなんか似合ってる。まだまだ未完成で伸び代あるし、ちゃんとした固定のサポートメンバー見つかるといいな。