GVVC Weekly – Week 355

Tunng – Anoraks

タンが単発のニューシングルをリリース。レーベルは変わらずFull Time Hobbyです。
インストにする予定が、急遽、語りのパートを思いつき最終的にはコーラスも追加されたというこの楽曲、曲単体としてみると過去最高の強度かもしれません。
元々のシグネチャーサウンドである、どこかアーシーなインディフォークに、環境音的なSE、グリッチ、語りにツインボーカルのコーラスフックと普段に比べてかなり要素が豪華で、ともすれば装飾過多にもなりかねない仕様ですが、それぞれはあくまでも慎ましやかに、全体をきれいに整えられた素晴らしい仕上がりのトラック。何か偶発的な要素が追加されると、クリエイションがもう一段昇華されるというのはあるあるなのですが、まさにそれが起こったと思われます。


Lauren Auder – yes

ロンドンのローレン・オーダーが約2年ぶりのプロパー新曲となる単発のニューシングルをリリース。レーベルがUntitled (Recs)ということでTrue Pantherではなくなっているようです。
内容の方ですが、これまでとは明らかに趣の変化が感じられて、そこそこポップなボーカルハウスみたいなテイストのアレンジが新鮮な仕上がりになってます。モダンなシンセ濡れになったボーカル入りThe Whistle Songみたいなサウンドだし、前作の攻撃的で苛烈にマキシマイズされた音作りでは全くなくなっていて見違えるよう。何があったのかしら。
歌唱だけはまあ相変わらずですがオケとの対比でもそんな不自然な感じしないですし、個人的に大歓迎な方向性で絶対この方がいいからこのままアルバム作って欲しい。

今週のLP/EPフルリリース

Just Mustard – WE WERE JUST HERE (LP)

先行曲いくつかで方向性はわかっていた。そこからイメージしていた通りの仕上がりで、上を行くでもなく、下回るでもなくの手堅い内容。
ちょっと硬派なポストハードコア的硬質さ、メタリックな質感を大部分で手放したのは賛否分かれるところかもしれない。しかし完全に消失しているわけではないし、今作の調整は魅力的な女性ボーカルと浮遊感のあるシグネチャーサウンドをもっと強く打ち出してリスナーの間口を広くするという選択の結果であることが伺える。
先行のM-1、M-2あたりは特に完成度が高く、バンドの武器、持っている要素を詰め込みつつ特段ポップに提示することに成功してる素晴らしくシングル向けの楽曲で、ポストロックとシューゲイズの要素があるインディロック程度のレベルにまで思い切っており、これ以上やるとヤバイ(悪い意味で)っていうところのギリギリ寸止め。ギターの奴の音作りは相変わらず冴え渡っており、歪ませつつのゲートやリバースまでを操る空間系を多用したプレイは明らかにサウンドの中核。
アルバムの全体的なバランスも取れており、そつない感じで良くも悪くも特に気になるところはない。ただこれがまだ3rdなわけで、マイルド最適化がちょっと急ピッチ過ぎるのはやはり気にはなるし、あの無骨な感じがよかった面もあるから、この方向性はいったんここまでにしといて次は変えてきて欲しいというか、その方が息が長くなるはず。頼むね。


Joe Westerlund – Curiosities from the Shift (LP)

ノースカロライナ州ダーラム在住、Megafaunなどのドラマーによるソロ。
アフロ・キューバン・ラテンの要素がふんだんに取り入れられたパーカッシブな自然派アンビエント作品で、エクスペリメンタルというか尖ったような側面はなく、なんとなく「ワールド」の一言で片付けてもいいような、基本やさしいサウンド。カルロス・ニーニョ周りの感じより圧は若干強めでシンセティックではある。
ポリリズミックになる瞬間もあるにはあるし、かなりリズムコンシャスではあるものの何かしら音階を感じる旋律的なものはだいたい常に存在していて、ドラム馬鹿の作品にありがちな、メロディのないひたすら太鼓祭りが展開されたりする局面はない。アンビエントシーケンスの部分を担う音色や曲調自体も結構幅広く、いまいち出典国籍不詳のある意味で適当なアレンジが多い。それゆえインチキではあるのだろうが(だからこそ単にふわっとワールド、という言葉が適当に思える)良い意味でガチではなく気軽に向き合えるイージーリスニング仕様。1時間くらいあるし、垂れ流しとく分になかなかいい感じの音楽です。