ウォー・オン・ドラッグズが3年ぶり新作アルバムのリリースを公表し先行曲ビデオを公開。
大飛躍を遂げた前作から時間をかけ練り上げたLPのオープニングトラックは、独白のような
モダンカントリーフォーク・バラッドで彼の武器の一つであるラフな男の哀愁が漂っており
WilcoやThe Nationalあたりもたまにやるような、実にアメリカンな感傷をイメージさせる
音像です。単純にサウンドのクオリティが高くで説得力がすごいから深く響いてくる、この
強度はもうインディの範疇では全くなく、超一流ロックアーティスト。今回も傑作でしょう。
Julia Bardo – ‘No Feeling’
イタリア系のマンチェSSW、ジュリア・バルドーがついにフルレングス作LPをウィチタから
リリース、5月に公開されていた楽曲を含むためこちら2つ目の先行曲となります。長いこと
シングルやEPのみのリリースだったのが、ここにきて満を辞してのデビュー・アルバムって
事で音楽性も少しブラッシュアップ、今回はポストパンク化したセント・ヴィンセント的な
サウンドが非常にハマっている楽曲でなかなかイイ感じです。シンガーよりもギタリストが
本人のベースにあるようでして納得の質感。ワークング・メンズ・クラブ抜けてよかったね。
MUNYA – Pour Toi (Official Video)
モントリオールのムニャちゃんが久々のプロパー新曲をリリース。相変わらず舌ったらずの
フランス語アンニュイDIYシンセフォークが炸裂してますが、以前よりちょっと空間を埋め
切ってしまっている飽和感があってインディ・ダンスの負の側面、ループ・サンプリングっ
ぽい雰囲気が出てしまっておりそこは残念。スッカスカのヘロヘロで攻めてった方がいいよ。
Tropical Fuck Storm – New Romeo Agent (Official Video)
トロピカル・ファック・ストーム新作からの先行トラック。今回は一推しのエリカ・ダンが
リードをとっているので載せずにはいられない。本当にいいボーカル、声も発声も歌い方も
好きすぎて。このバンド、サウンドは割といつも格好いいんだけどメンズのボーカルが少し
苦手で、彼女が歌ってる曲だけ聴いてる…ゴメン。楽曲はGang Gang Danceから民族的な
テクスチャーを限りなく減退させてポップに薄めたグラマラス・呪詛エキゾ・アートロック。
The Weather Station: Tiny Desk (Home) Concert
年明けに最高傑作の金字塔アルバムをリリースしたウェザー・ステイションのNPRライブ。
コロナ以降はデスクではなく(ホーム)コンサートという事でアーティスト側の任意ロケで
構成されていますが、この路線ほんといい映像になってるから毎回楽しみで継続して欲しい。
内容はというと今年見たライブ映像の中でも最上位の出来、若干ストリップト・ダウン版に
編曲されてるが本当に効果的で、デッドな音響もプラスに作用しとてつもなくクールな音像。
音源であまり印象にないクラリネットとかもいい感じですし、本人の立ち振る舞いも完璧。
リズムを純ロックのダイナミズムのままに据え置きながら流麗に室内楽を持ち込みつつ、本気
クラシカル仕込みのアレンジで気品のある仕上がりでも頭でっかちでない聴きやすいポップ、
わかりやすいカタルシスまで湛えた、かつて誰も到達し得なかった物凄い音楽ですよこれは。
TOPS – Party Again (Official Audio)
トップスがツアー再開に先駆け、コロナ期間に仕込んでいたセッションからプロパー新曲を
久々にリリース。直球の曲名で、昨今の抑圧と渇望をストレートに表現した内容。音の方は
ここんとこパキッとスッキリ洗練された傾向のサウンドになってましたが今回は少し曖昧に
ウェット深めでドリーム寄りの音像と、甘く可愛らしく響く軽めのショートトラックですね。
alexalone – Electric Sickness [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
前回の先行トラックも紹介したアレックスアローンのデビュー作から、このプロジェクトを
開始するにあたり最初に書いた曲というこちらが公開。地味だけど音源とは思えないような
ライブ感ある生々しい鳴りで、これスローめのクラウト系ビートがコーラスでバーストする
展開はままあるにしても、そこのリズム組みというかドラムプレイがかなりクレバー。裏裏
16でスネアゴーストにキックとライドの8強打、コーラス部のバッキングがこのドラミング
って記憶にないし、ブリッジ部のインストパートをコーラスと同時にやっちゃったみたいな
事故的なアレンジが面白いんです。淡々と進行する微熱のテンションも、終わり方もナイス。
今週のLP/EPフルリリース
Mega Bog – Life, and Another (LP)
相変わらず凄く特徴的なバランスのサウンドで、ほんと他にこんな音のバンドいないし独特。
いつもちょっとジャズっぽくて、表層的にはメロウな雰囲気もあるけど、どちらかというと
『沼』のジャズだし、ボーカルはライトだけど内側が深く蝕まれたような狂気を孕んでいる。
ラウンジ・ウィアードポップ・ジャジーポストパンクたまに微スピリチュアル・コズミックで
かつ非常にアメリカ的でもあり、変な話スティーリー・ダンっぽさもあるし、何ていうか…
異様、異様、正気とは思えない。これは明確にアートだし、常人じゃできんよ。それでいて
パッと聴いた印象は割と取っつきやすいから余計この怪しさに気付いた瞬間の焦りというか
ヤバイところに来てしまったっていうような冷や汗感の体験が強烈なものになるんですよね。
Molly Burch – Romantic Images (LP)
想定のさらに上をいく完全なるテニス。テニスのアルバムを丸ごとカバーしたような感じで
これ作曲というかフレージングにも口出ししてると思うな。でもその成果物は結構いいです。
女優的なシンガーというかあまり本人に確固たる音楽性があるタイプではないのだろうし、
どのようにでも調理される、プロデュースのしがいがある彼女。本家テニスほどレトロ趣味
全開にはならないのでもう少しモダンな質感になるし、その分中庸とも言うけど軽く聴ける
ボーカルものとしてはラブリーな出来じゃないかな。ただ比べると前作の方が確実に上です。