GVVC Weekly – Week 241

Sampha – Spirit 2.0

サンファが単独名義のプロパー新曲としてはデビューアルバム以来6年ぶりとなる入魂のシングルをビデオで公開。
客演の出没率が高いのであまり寡作なイメージがないのですが自身の単独作となるとそんなに
空いていたんですね。内容の方はというと音楽性って意味ではさして変化ないもののクオリティがとんでもない事になってまして、サウンドプロダクションと楽曲自体のスケールが異常にアップしてます。
前だとまだソウルフルなUKビート系の範疇だったんですが、いよいよ若干のポストロック味まで醸すようになりメインストリームも飲み込める程の説得力、深みも出てきた完全無欠のニュージャズ・オルタナネオソウルに。一時期のフライングロータスとレディヘの中間みたいな世界観で、これだけでも相当なのにその音楽に乗るのが規格外のボーカルですからね。正直、個人的には若干趣味じゃないんですが、ちょっと今回はもう好みとか超越した次元に到達してるので年間ベスト候補レベル。おみそれしました。
アルバムのアナウンス等はまだないですがこれを入れないワケがないので収録されるでしょうし、2ndアルバムもメディア絶賛待ったなし。
なお客演マスターの自身の作品には当然、客演がいっぱいになるというセオリー通りでオーウェン・パレットに、エル・ギンチョ、Yaejiなんかも参加しているみたいです。


Pollyanna – The Beach

イングランド・ピーターバラのSSWポリアンナが弾き語り動画では以前から公開していた楽曲のレコーディング音源をセルフリリース。
レフトハンド入りまくるミッドウエスト系のテクニカル・エモとインディフォークが完全に融合した相当なおもしろ音楽で、ザクザクのピッキングもアコギながら尖ってますが、歌のメロディや節回し自体には特にエモコアやメロディックパンクのニュアンスはなく純粋なSSW然としているところが素晴らしいし、緩急やブレイクの入れ方もフリーフォームで躍動感たっぷり。すごく若いよね?今後が楽しみ。このままでもいいけど、やっぱ一番はバンド従えての編成になって欲しいかな。


Susanna – Obsession

Jenny Hval等とも連名作をリリースをしているノルウェイの著名シンガー、スザンナ・ヴァルムロードは近年、仏詩人シャルル・ボードレールの詩を題材にしたリリースを続けていて今回はそのオーケストラアレンジのアルバムが出るということで最初の先行曲。
わざわざ歌にして歌うなら原文にしろって感じもあるが、当たり前のように英語に翻訳されています。
今までの作品聴いてるとまあボードレール好きってのめちゃくちゃ分かるわぁという趣味だけど、この人の音楽でこういう本気の交響楽サウンド珍しいなと思ってちょっと新鮮だし、中々良いんですが、なんか普段以上にビョークっぽくなってますな。薄味のビョーク。でもそれってある意味求められてるものでもあるよね。


Empty Country – Pearl

シンバルズ・イート・ギターズのボーカル、ジョセフ・ダゴスティーノによるエンプティ・カントリーがデビュー作をリリースした2020年以来となる単発のシングルを発表、ビデオで公開です。
前作も仲間を従えたバンドサウンドで、Cymbals Eat Guitarsを彷彿させる部分も多分にあったものの、個人的にはやはりソロだねという感じの、より縮小され散漫になったバージョンという印象だった。で、結構間が空いて今回はどうなったかというと、ほぼそのまんまCymbals Eat Guitarsに。この人はほんとスケール大きくプログレッシヴにするのが好きだよね。やぶれかぶれ感、泣きエモっぽいセンチメンタリズム、ダイナミックなオルタナロックの刻みと、バンドにあったモノ全部ここに。そこに少しだけ中西部要素というか、アメリカの燻んだ田舎の香りをプラスと、ちょとだけ年相応に大人になったバージョンで中々味わい深い。結局これでいいんだろうね。


Ratboys – The Window

シカゴのラットボーイズが8月にリリースするデスキャブのクリス・ウォラがプロデュースに入った新作アルバムよりタイトルトラックのビデオです。
レーベルは一貫してTopshelfで、まあそういう感じの音だけど、今回はこれまででも一番いいと思う。確かにエモの要素はあるが、どこか瑞々しくさわやかなムードがあり、軽さを持たせながらもボトムを太めに落とす間口の広い、良い意味で中庸なサウンド。
そして何よりこの、The Windowは何かというとボーカルのジュリア・シュタイナーの祖父が祖母に別れを告げた窓だっていうんで、コロナで今際の際でも老人ホームに直接会いに行けず、しゃあなしに施設で祖母が居るその部屋の空いた窓の外から語りかけたという最後の言葉を一部そのまま歌詞に流用しているらしい。同じタイトルの楽曲は星の数ほどあれど、これほど美しいThe Windowはなかろう。


Olivia Rodrigo – vampire

ちょっと特別枠というかもはや時事ネタに近いですが、オリヴィア・ロドリゴの新曲、これスゴクいい出来です。超がつくメインストリームものでたま〜に出る奇跡的な出来のスマッシュヒット。ビデオは泣けるほどダセエし、歌い上げ方とか普通にしんどいんで個人的に好き好んでは聴けないが、往年のスーパースターとかでもごく僅かな本当の全盛期にだけ訪れる、本人の勢いとかタイミングが完全に熟し切った瞬間の輝きが宿ってます。これがいのちの炎だ。

今週のLP/EPフルリリース

Vaarwell – quarter-life crisis (LP)

LPとしてますが、全7曲で1分強のイントロとインタールード込みなので5曲、そのうち3曲はシングル公開済みと、これは実質ミニLPかEPです。なぜこの人たちはアルバムが作れないんだろう。10年近くやってるのにちゃんとしたフルレングスはHOMEBOUND 456のみだよね…
ってまぁそれはおいといて、内容はメンバー抜けて今の音楽性に振ってからの集大成という感じでなかなか良いです。アブストラクト・エレクトロニックソウル〜ダウンテンポ・オルタナR&Bっていう感じの音楽で、アーバンかつ夜を感じさせるソフィスティケイテッド・ポップ。細かいエフェクトの入れ方やサウンドプロダクションだったりでのレフトフィールドな雰囲気の加え方が絶妙にナイスで効果的かつスマート。やっぱシングル公開時も紹介したM-3が特に際立ってるかな。
これでポルトガル、リスボンってのがあまりにイメージになく、なんだかんだ存在感があってたまに思い出しては聴いてしまうバンドです。今とはずいぶん音が違うけど、最初のEP収録のこの曲もいまだに聴いてる。もう8年も前か…。