GVVC Weekly – Week 283

Milton + esperanza – Outubro

エスペランサ・スポルディングとMPBリヴィング・レジェンドのミルトン・ナシメントが連名でのコラボアルバムをアナウンスし先行曲を公開。
全体的にはミナスの楽曲、エスペランサの楽曲、カバー曲のほぼ均等割で構成されているようで、今回のトラックに関しては過去のミナス楽曲のカバー再構築バージョンとなり、ジャジー・ブラジリアン・バラッドのデュエットからジュディ・ロバーツ的なライトフュージョン風パートにも突入する、単純にモダンなラテンアメリカ・ニュージャズのようにも受け取れる仕上がりです。その他客演にもポール・サイモンからリアン・ラ・ハヴァスまで参加している模様。
これは中々のビックリコラボというか、アルバムまで出るレベルのプロジェクトなのは驚きですが組み合わせ的にはしっくり来るし、文字情報で想像する以上にフレッシュで強度ある確かな仕上がりで俄然期待が持てます。いい家で佇む完全に「孫とじいちゃん」でしかないミュージックビデオも中々ハートウォーミングな雰囲気ですね。


Nap Eyes – Feline Wave Race

ハリファックスのナップアイズが2021年EP以来となるリリースとして2曲入りのシングルをリリース。LPのアナウンスなどはなしです。
直近のプロパー作フルアルバムではリード楽曲が当GVVCでも年間ベストソング第一位を獲得したのも記憶に新しい(選んだ本人のお前だけ)ですが、今回もA面扱いの楽曲が基本的には同路線となっていおり、ややモダンなテクスチャーに修飾され淡く弛緩したタイム感のオルタナフォークが6分間ゆったり進む中、唯一無二に気の抜けたいつものナイジェル・チャップマンのボーカルが安定の存在感。
しかしながら今回は進化版というか、リリックの世界観が意味不明を超越し、夢日記と大差ないレベルで支離滅裂。ちなみにタイトルのWave RaceというのはNintendo 64のゲームのことです。(歌詞で明言)なお猫ちゃんだらけのミュージックビデオがbandcampで予告版30秒だけ載ってるので後日本公開になると思われます。


COWTOWN – Total Engagement

カウタウンが今月末リリースする新作アルバムから新たな先行曲がビデオ公開。先に出ていたリードトラックも紹介していましたが、今回は面白ビデオでの加点もあっての採用です。
サウンドの方はソリッドとゴチャつきが同居したアートパンク・ポストパンク的なもので少しポストハードコアのテイストが感じられる点がポイント。直線的な疾走感とねじれ感が不思議に同居したつんのめりそうになるグルーヴで駆け抜ける限界点2分半の尺もベストでしょう。
前述の映像の方はゲームボーイ的な画面で各パートの演奏をTAB譜ならびに視覚的なガイドで追従したものがひたすら流れるだけの内容ではあるのですが、リズムとその同期含め結構ガチめなトランスレーションで普通に実用性あるレベルなのが面白い本気の仕上がり。
歌詞はカラオケカンペですがスマホの画面風で、それをドット絵で再現(?)しているものがゲームボーイの画面テイストで2024年にYoutubeで配信されているという意味不明な状況が。こんがらがってるin my brainに拍車をかけます。


Lido Pimienta – He Venido al Mar

先週パートナーの楽曲に客演参加したばかりのリド・ピミエンタが今度は自らが主役で単発の新曲をリリース。今度は立場が逆でMas Ayaがパーカッション参加です。
こちら彼女自身のオリジナル新作ではなく映画のサントラ収録楽曲のようで、なるほどリズムの抑揚がやや控えめでフラットに、ひたすらに伸びやかなメロディが漂うプールサイド・ハウスのような雰囲気で、プロパー作よりも作家性を薄めたBGM適正の高いよそ行きバージョン。
ビーチに舞い降りたリド・ピミエンタ、全部こういうのだとさすがに味気ないけど、規格外の歌心でボーカルが良すぎるから、偶にはこんな感じも聴き易くていいね。

今週のLP/EPフルリリース

Shellac – To All Trains (LP)

プロパー新作LPとしては10年ぶりなんじゃないのかな。前作は当時ヴァイナルで買ったので結構聴いて、だいぶ聴き易くなったじゃんとか思ってたけども、遺作ってことになってしまった事実上ラストアルバムの今作はより一層聴き易い感じ。
展開がそんなに突き放し過ぎてなくてもシグネチャーである音自体のカッコ良さ、替え難い孤高の風情は何も削られていないので、瞬間の勢いとか人間のバイオリズム的なピークとかの要素を度外視すれば音楽性自体は今までの上位互換ともいえる。間口の広いものがより上位であるという前提の話だけどね。1曲目とか下手したらキャッチー過ぎる。
アルビニについての全ての記憶を消して、ポッと出の新バンドとして今これを聴いていたらどう思うだろう。やたらと鳴りに拘った重めのポストハードコア?ちょっとだけオルタナっぽさもある…インテンシティをマイルドにしたフガジ…みたいなところだろうか。しかし、ジャケットのイメージとかは関係なくこんなに強烈にモノクロームを感じさせる音楽性ってある意味凄いよな。音色とメロディの薄いボーカルで本当に色彩がない。なんなら本人の瞳にも色彩がない。(ように見える)


Hana Stretton – Soon (LP)

薄らノイズがのってレコーダーの駆動音までも聞こえてきそうなローファイな音像の漠然としたフォークに、ドローンやギターによるロングシーケンスではなく環境音やフィールドレコーディングなどを加えて作る本来的な意味でのアンビエント空間。
厳密には新作ではなく昨年初出のローカル作品で、このたびフィル・エルヴラム(Mount Eerie)が基本的には自分の関連作しか出さない(当たり前)自身のレーベルから例外的に再発リリースという代物。彼の作品と決定的に似てるわけではないんだけど、彼がそこまで気に入ったというのは物凄く納得できる内容。何か単にノスタルジーというのとは違うこの存在感、オーガニックな歌物なのに曖昧過ぎて匿名性が高くなってるという不思議な仕上がりで、どこまでも軽く薄いんだけど消え入りそうな儚さとかではない生命の美しさと確かな作家性が感じられる。歌唱も幽玄すぎず世俗すぎずニュートラルにクリアーで真に滋味深い。
これはホント凄いね…是非アナログで欲しい、これ静かな店とかでかかってたらこれ以上ないくらい完璧なBGMでしょう。