さよならライブハウス

AVYSSで公開された鼎談記事は、もう皆さんお読み頂けましたでしょうか?その中で
さんざ「このビジネスモデルがいけない、ノルマ制を採っているライブハウスはクソだ」
という態度をとっている手前、投げっぱなしもナンなので、具体的にどうクソで
そこからどうしていけばいいのか?など、建設的な提案をしていこうと思います。

以下、バンドに限らずSSW、クラブ・ビート系のトラックメーカー等々は全て便宜上
出演者側の呼称を『バンド』に統一、『箱』は基本的にライブハウスの事とします。

まず大前提として、「箱を借りる際に箱代はタダであるべきだ」とかいうトンデモ論を
語っているわけではないので、そこは誤解しないでくださいね。念のため。
箱のレンタル料がかかるのは当然です。

私が批判しているのは、箱貸しではなく、”ライブハウス側が”
名目上は『出演者』として箱の企画にブッキング(ようは出演オファーです)している
にもかかわらず、そのバンドに対して一定のチケット販売ノルマを課すビジネスモデルです。

まさにこの文化圏に一時でも身を置いていた人間なら、改めて
振り返るまでもないシステムですが、詳しくない方のために簡単に説明します。

このチケットノルマというのは、つまるところ集客数の担保です。
動員が実質的にゼロだった場合でも、箱側が赤字にならないように設定されています。
だいたい1,500円のチケットを20枚というのが平均相場なイメージですが
2,000円を20枚や1,200円を20枚のパターンもありますし、直前の日程だったり
箱のお得意さん(笑)になると半分にまけてくれるなんてパターンもあります。
“言い値”なのでね。真の客はオーディエンスではなく、出演バンドの方なんですよ。

この設定枚数以上を集客できれば、超えた分からは50%バックだったりします。
それが建前上のギャラとなるのですが
ここで悪質なのは、そのバンドが20人も呼べない(ことが多い)のを
初めからわかっててブッキングしているんです。

これは俗に”平常ブッキング”と呼ばれ、箱のブッキングマネージャーがその日の
イベントを”企画”してるという”体”(テイ)で出演させたいバンドに声をかけるのですが、
ここで注意して欲しいのは、真の意味で”出演して欲しい”バンドではないです。
『チケットノルマの負担をさせた上での出演』を呑んでくれる(であろう)バンドですね。

過去にも出演したことのある”リピーター”だと直接電話やメール、
もしくはライブ後の清算ついでに次回のブッキング日を決めたりもするのですが、
初物の釣り方はというと、バンド自らデモを箱に送付(HPで募集してたりするので)
させるか、ネット上で見つけたバンドに片っ端からメール、今だとSNSでのDMなんかで
「音源聴かせて頂きました!素晴らしいので、ぜひウチに出演して欲しいのですが
X月X日などはいかがでしょうか?チケットノルマは1,500円 x 20枚の30,000円です。」
などと、甘言(になってない)を送りつけるのです。
もうちょっと詳しい感想や大仰な夢物語が添えられている場合もありますが、
こんなこと言いながら実際は音源一切聴いてないとかも日常茶飯事ですので。
ちなみに”クソ箱度”が増すにつれ、ここんとこの絨毯爆撃感、勧誘の必死さが激化します。

このような流れで、大体1日に5バンド前後でしょうか?
一応は業界人に見える、”ライブハウスの人”に褒められて嬉しくなっちゃった
純真無垢なバンドたちが(達成できるわけのない動員ノルマを課されつつ)集められ、
箱的には完全な『捨てイベ』が準備されていくのです。

その結果として、ときに完全な有象無象の寄せ集めライブになることもあれば、
一応はツアーバンドのヘッドライン公演で、共演枠を地元の有象無象が固めるといった
形になることも。場合により、多少は名のある全国区のバンドと”対バン”できるわけです。
無名バンドは「キャリア」が欲しいので、この辺が釣り餌になっている部分もあります。

これ面白いのが、この前者のパターンになってしまった
コンセプトゼロ(ごく低い次元においては厳密にゼロじゃあないのかもしれませんが)の
しょうもなさ過ぎる寄せ集め平常ブッキングライブにも、
一応は白々しいイベントタイトルがご丁寧に付けられていたりするんですよ。
“New Generation” とか “Future Sounds” とかね(笑)。無いとこもありますが。
そして、手前で企画しておきながら、特に積極的に宣伝されることなどはありません。
せいぜい箱のHPスケジュールとSNSに載るくらいでしょうね。

つまり、ここでの”興行主”と”出演者”との関係性は欺瞞に満ち溢れたものなんです。
もはや所定のサービス料を払えば、プロ仕様機材とPA&照明オペレーター付きで
『ライブごっこ』をやらせてもらえる体験型アミューズメントの一種という事になります。

尚、このビジネスモデルを採用している箱も、すべての営業日に於いて
このスタイルの公演だけを組んでいるわけではなく、箱貸しの日もあるでしょうし、
土日祝はゆかりの深いバンドによる持ち込み企画(実質的な箱貸し)だったり、
かなりの集客が見込めるバンドの単独公演(ギャラあり)だったりもします。

本来、箱的にはこれらが主にやりたいことなのでしょうが、それだけの運用だと
維持費が重すぎるんですよ。なので、借り手のつかない日に赤字を垂れ流すくらいなら
『ライブごっこ屋さん』として営業することで、晴れて経営を続けることができるのです。

この様式は日本特有のものです。ただ欧米ではノルマなどはない代わりに
バンドが出るような箱すらドラムを始めアンプなどの機材がない場合も多いので、
日本のノリでギターとエフェクターだけ抱えてライブしに行っても何もできません。
基本的に出演側が手配する必要がある為、バンド同士でシェアしたりもしょっちゅう。

日本ではここまで説明したような営業形態になっているライブハウスがほとんどで、
チケットノルマ制への依存度は箱のグレードにより大小グラデーションで様々とはいえ、
全日程で完全にノルマを一切課していないのはごく一部の最上カースト箱だけです。

多くの現場で、さも当然のようにチケットノルマ制が受け入れられているせいで、
入り口の段階では、出演側が金銭的リスクを負っている事実に疑問を持ちにくいんですね。
その後続けていく中で、内心でこのシステムはおかしいよなと思い、釈然としないまま
デファクト・スタンダード化しているこの慣行に渋々、従っている人達もいるでしょう。

でも、それに疑問を持ちながら、最終的には受け入れて出演を続けるというのは
結局この不健全なビジネスモデルの再生産に加担するだけですから、今すぐやめてください。

かといってじゃあライブ自体をするな、諦めろ、と言ってるわけではありませんからね。
それが無理な相談なのはよくわかってます。
だって、とにかくライブがしたい!って欲求がどうにもあるわけなんですね、
箸にも棒にもかからないバンドでも、やってりゃ絶対にライブがしたくなる。
そこにつけ込んだのがこのライブハウスビジネスです。だから成立してるんです。
ある意味ではスキマ産業ですよ。

しかしですね、”出演者は基本的にギャラを貰う側”です。いいですか?
ライブイベントというのは誰かしらが何らかの意図を持って企画して初めて開催されます。
そして箱代を始めとする必要経費を払っても、チケット代=入場料でそこをペイできる
その前提があるからこそ開催されるわけなんです。

で、宣伝・集客にあたっての責任は常に興行主・プロモーターの側にあり、
仮に当日の動員数がふるわなかったとしても、”バンドに”ギャラを保証するんです。
客が全く入らない=興行として成立のしようがないイベント、ってのは本来的には
最初から存在するはずのないものなんですよ。

そりゃあ、”あがり”が極端に少なくても、むしろ赤字に振れていたとしても
許容範囲であれば、実現したいラインナップや現場のムードについて理想を追求して、
多少は経済損失を被る事もあるでしょう。というか初めはその方が普通です。
ただ、その場合でもそれが出演者に転嫁される事は決してあってはなりせん。

何はともあれ、チケットノルマを受け入れてのブッキングライブに出演という選択肢を
完全に排除した上で物事を考えましょう。そこがスタート地点です。

その上で、何のコネもない無名なバンドが、ゼロからライブをしたいのであれば
自分らで箱を借り、企画し、プロモーターの役割も自分ら(ないし身内)で担うか、
もしくは地域で有名なイベンター(地方でもだいたい一人ぐらい居る)にコンタクト取って
その人がやってるイベントに出してもらうかの二通りで、
場所は別に画一的なライブハウスじゃなくて、箱ですらないところで
無理やり環境を作ってDIYライブを行うのでもいいんですが(可能なら寧ろそっちのがいい)
兎も角、自分とこの学祭ライブでもない限り、何かしら自発的に積極行動しないと
ライブできる機会、場を設けるというのは一筋縄ではいきません。

駆け出しバンド単独でいきなり中規模以上の箱を借り切ってのライブを敢行というのは
金銭的にも現実的ではないですから、もっともオススメしていきたいのはやはり
ある程度、統一感のある複数バンドでのライブ/DJイベントを自主企画して、
地元の小さなミュージックバーかカフェ的なところへ持ち込み、事情を説明して
そこで開催させてもらうというパターンでしょう。ドラムは使えないかもしれませんが
初めはそれでいいんですよ。徐々に、ライブハウスの箱借りにシフトしていけばいい。

松本のGive me little more.のようにミラクルなDIYオルタナティブ・スペースが
近隣に存在しているラッキーさんは、そういったところを頼ってみてもいいでしょう。

幸い今はインターネットにSNSがあります。地理的なトコにも依るとは思いますが
好きなモノがはっきりしている人なら、まあまあ近い音楽を嗜んでいる・作っている人を
同一エリア内で見つけるのってそんなに難しいことじゃありませんよね?
もうすでにイベントを主催してたりする人でもいいんです。

バンド組んで、曲が出来たら、ガタガタでもいいからとりあえず録音して、
それを何かしらにアップし、発信する。
と同時に、SNSで日頃からどんな音楽が好きだとか、何のライブに行ったとか
ネット上のプレゼンスどんどん高めてく。地域性は強く打ち出すのがいいでしょうね。
その先には双方向的な発見と、コミュニティ(イベント)の形成が期待されていますから。

何れにしても、こういう活動フローを想定した際に、重要になってくるポイントとしては
バンドメンバーじゃなくてもいいから、演者よりもオーガナイザー、プロモーター側の
働きを担い始める仲間を一人据えることです。影のメンバーと呼んでもいいかもしれません。
これからは、バンドやろうぜ!となった時に、最初から楽器の各パートだけでなく
イベンターのポジションも自然と必要枠として想定されるべきですね。
イベントオーガナイザーって実は、最強の花形ですよ?

なんなら高校生の時点でバンド仲間と一緒に、オーガナイズ方面に力を発揮する奴が
セットになっていて当然というような状況になれば、かなり未来は明るいでしょう。
バンド活動をテーマにしたマンガやアニメ、映画って沢山ありますが、
他校や地元のバンドに超詳しい音楽オタクの友達がめっちゃ奮闘してDIYイベントを
成功させるみたいな、そっち主眼のストーリーがあってもいい気がしますけども。

そんな感じで、今のこのチケットノルマ制を受け入れるバンドが限りなく減少すれば、
それでなんとか持ってる数多のライブハウスはどんどん潰れていくでしょう。
でも問題は無いです。いいんですよ、この胸糞ビジネスモデルに最適化された
コンビニチェーンみたいな無個性のライブハウスが消えたとして、それが何しょう?
ちゃんと真っ当にレンタル料メインでやれてる箱、ホールだっていくらでもありますし、
そっちは存続しますので、全面的にヴェニューがなくなってしまうことは有り得ません。

それに、こうして初級者が安易にチケットノルマを払うことで出演できる
劣悪な箱がなくなれば、ライブハウス以外で開催されるDIYイベントは確実に増えます。
そもそもライブは『ライブハウスで』のみ執り行われるべしという決まりも無いんです。
必要に迫られると否が応でもオルタナティブな手段を探すというやつですよ。
飲食店やレコ屋のタイニースペースで半ば無理やり開催するインストアライブとか、
沢山あるじゃないですか。他にも、市区町村の貸しホールみたいなのは意外と穴場です。
練習スペースでのスタジオライブを許可しているリハスタだってあります。

どの街にもある、たまに音楽イベントもやってるような個人経営の飲食店とかね、
明らかに儲けるためだけにやってるわけじゃないんだし、
お金のなさそうな地元の若者が決死の思いでイベント企画持ち込みの連絡をしてきて
邪険に扱うワケ無いんですよ。ノルマなんて話には絶対なりません。
もちろん店のカラーってのはありますからね、そこはちゃんと現地に足を運んで
毛色というか、テイストが乖離しすぎてないような所を選びましょうね。

あとは市民ホールとかって、広さに対して利用料めちゃくちゃ安いですよ。
予約とか日程抑えるのが結構シビアだったり、設定できる入場料の制限とか
酒類不可とかの不自由はあったりしますが、必要機材さえクリアできれば選択肢に入ります。
足りないものは自前で用意するんです。

確かに、こういった機材の揃っていない環境でDIYライブイベントを行うとなると、
ドラムに、アンプやミキサーなどの問題は発生します。
でも正直、まだまだやり始めたばかりのアマチュアバンドがギターアンプどころか、
プロ仕様のモニタースピーカーがあるステージでライブできる必要性、全く無いんですよ。

極端な話、音出てんのはモバイルキューブ一丁からのみ、みたいな環境でもいいんです。
ドラムはパッドでもいいじゃないですか。
生に拘るにしたって、スネアとフロアタムだけでもなんとかなりますよ。
セカンドハンドもおおいに活用しましょう。数万あれば中古でだいぶ揃います。
初期段階からこっち方面の知識も吸収しておけば、将来的に必ず差がつきますから。

今までクソ箱に払っていた3万はもっと有意義に使いましょうね。
3万の対価としてライブをさせてもらってるという消費者意識では何も生みません。

平常ブッキングでノルマを課して、可哀想な素人バンドたちから日頃搾取してる箱で、
環境やファシリティにものすごく個性のある、そこの場自体に付加価値が高いような
構造してるライブハウス、どんだけありますか?正直、ほとんど無いでしょ。

…と、散々に書いてきましたが、チケットノルマ制を採る全てのライブハウスが
最初から搾取的な思惑ありきでスタートしているわけではないでしょう。
いろんな音楽や出会いが交差する、いい箱にしたいなっていう志を持って
スタートするのでしょうし、無知なバンドを騙すのは本望ではないかもしれません。
ただまあ、そういう理想と確固たる具体的なビジョンがあるのなら
最初から画一的な日本式ライブハウスの業態を選択するかな?という気はしますけど。

産業としてこんな歪なビジネスモデルが確立されて、当事者たちがそこに疑問を持たず
(持った人もいたでしょうが)連綿と続いて来てしまったので、この営業スタイルでも
変に貫禄というか、歴史が刻まれてて、なまじ名店みたいな扱いになっている箱も
それなりにありますから、運営関係者が全面的に絶対悪だと断罪する気は毛頭ありません。
日本の環境、バンドのライブしたい欲求と、商機とが出会ってしまった不幸とも言えます。

それでも、これは終わらせるべきです。

『やっぱり私たち、別れるべきだと思うの』
『いつか、DIYでライブができるようになったら…その時は、また』