GVVC Weekly – Week 340

Lucrecia Dalt – caes (feat. Camille Mandoki)

ルクレシア・ダルトが前作に引き続きRVNGから9月にリリースする新作アルバムよりこれで三つ目となる先行曲がビデオ公開。
メキシコのソロアーティスト、カミーユ・マンドーキが客演でボーカルをとるこちらは前作から続く中南米の香りがより強烈に残ったラテン・トリップホップとでも呼びたい楽曲で、煙たいような妖しいムードと明瞭に整理された音響が鮮烈なコントラストを放つ仕上がり。
前のトラックを紹介した時も確か似たような事を書いたけど、コンポジション的には最早これはエレクトロニックのラベルは不適切だと思う。でもやはりどこか響きというかテクスチャには明らかにそういうテクノ、IDM的なものを通過したというか、そういう音楽に主に内包されているある種の鋭さがあってそこが実に面白いし彼女の作品の特別感を強めてます。ジャケットがめちゃくちゃ怖いからフィジカルは買わない予定ですが、内容的には今回も間違いなく傑作でしょう。まだ2ヶ月近くあるけど、もう先行切らないでいいと思う。


Racing Mount Pleasant – Your New Place

自らのバンド名を冠した前回のシングルも記憶に新しいミシガン州アナーバーのレイシング・マウント・プレザント(ex. Kingfisher)がR&Rからのデビューアルバムをアナウンスし新たな先行曲を公開。
同じセッションの音源であろうし当然ながら方向性は変わらず、2本のサックスやトランペットが入ったナチュラル系のポストロックで、ボーカルの歌唱や節回しにそこはかとなくエモ味がある。今回、更にはストリングスも入ってチェンバーポップのニュアンスもあり、いかにも大所帯バンド然としたアレンジ、そして安定の長尺。でもとてもダイナミックな展開と演奏でそんなにダレずに最後まで聴けます。
当然ながらクリック聞いてない一発録りで瑞々しくて生々しい、実にライブ感のある素晴らしいサウンド。個人的に好みの要素が少しずつ詰めこまれている音楽性なので特に刺さってる部分もありますが、繊細さも持ち合わせていながらスロウコアだったり大人しい方向性には流れず、徐々に盛り上げていくバンドアンサンブルが明確に好きな人たちの演奏で非常に強度が高いです。オススメ。


Syd – Die For This

ジ・インターネットのシドが久々にソロのプロパー新作を単発シングルでリリース。
今回はちょっと趣を変え、軽くオルタナR&Bのニュアンスがあるだけで全体的には何なら宅録ベッドルームポップみたいな軽い仕上がり。最近ので言うとイメージしたのは歌が上手になったFreak Slugとか。
簡単な作りのビートに2分半の短尺もあいまってとってもライトな小品って趣だけど、なんだか愛嬌があって素敵なメロディと甘過ぎない親密なムードがこれはこれで素晴らしい。バースで抜きまくったベースパートが音色込みでキモになっていてナイスアレンジです。こういうのもあっていいね。


Big Thief – All Night All Day

ビッグ・シーフが引き続き4ADから9月にリリースする新作アルバムより二つ目の先行曲を公開。
最初に出てた先のシングルでも感じたけれど、音楽性とか以前に、一人抜けるだけでここまで質が落ちるものなんだね。バンドは生き物ってのはまさにそうなんだけど、彼らの音楽に於いて一応、順番つけるなら相対的には最も重要度が低かったであろうベースが抜けただけでもコレって、まぁ特に渾然一体となったアンサンブル力(りょく)をウリにしてた人達だから余計に影響が甚大だってのはあるけど、それにしても驚きの変貌ぶり。
楽曲のトーンとしては前作の路線を基本にちょっとニューエイジと言ったらいいのかlate ’80sのポップスの雰囲気がわずかに取り入れられていて、個人的にシグネチャーの一つだと認識していたあの土臭さが軽減されており良くも悪くもかつてなく軽やか。まあ全く同じで行くと余計に脱退の影響が目立つだろうから理解できる舵取り。オリジナリティは明らかに減っちゃったけどね。聴く人によっては何がそんなに違うのかと言われるかもしれないけど…。
トータルのアウトプットとしてはもちろん全然悪くはないし、依然として高品質ではあります。これ本人たちの努力ではもうどうにもならないものだし、ちょっと聴く方としても前の感覚が前提になっちゃってるので面食らってしまいましたが、今後は慣れていくかな。


Kendra Morris – Flat Tire

NYのSSW、ケンドラ・モーリスが9月にリリースする新作アルバムから新たな先行曲をビデオ公開。
ルックスと音楽性が合致しておらず、普段はちょっとソウルが入った、いかにもNYらしいSSWロック・ポップスをやっていますが今回の楽曲はなんと、インディレゲエです。
ハイ落ちしてぼやけたローファイぎみの音像にユルくもほどよく甘いメロディとオーセンティックな演奏で、ボーカルは本格派。オルタナやインディという文脈にない人から偶然に生まれちゃった守備範囲の楽曲という感じで、こういうのに当たると得した気分に。ただ悲しいかなこれ以外の楽曲はおそらくまず自分が気に入ることはないであろうことが実際に他を聴く前からわかる。そういうもんです。

今週のLP/EPフルリリース

Goon – Dream 3 (LP)

前のアルバムもなかなか良くて、当時もリード曲は紹介したはず。今回もシャウトまでしちゃう先行シングルM-3が面白くて載せてましたが、本編ではその時に予想した印象ほどは攻めてなかった。でもおおむね満足な仕上がり。
まず全体的に以前からの雰囲気は残したまま少し幅を広げたような印象で、特徴としてはあまり加工のないクリーントーンで下手すりゃエヴァーグリーンポップのようなギターサウンドとダウナーに翳ったオルタナ成分がどちらが主従ということもなく自然に同居している点かな。そこにもっとドリーム寄りのシューゲイズ的な要素もあったり、ちょっとサイケで柔らかなフォーキーな側面もあったりというレンジをケニー・ベッカー(主要人物、実質的にはワンマンと思われる。ジャケ絵も描いてる)によるこの女みたいな歌声のボーカルが統一のカラーを付与して纏め上げる。
とはいえそのアンカーとしての役割を担っているはずの歌が音楽性上の存在感という部分ではかなり添え物程度で線が細く曖昧なメロディだし、どこかゆったりとしたタイム感が支配的なのもちょっと独特で、下手したらアンビエント風ですらあるのが不思議。まるで実在がないみたいで、良いんだけど聴いてたら眠くなるタイプ。いいのか悪いのか、サウンドは進化してるのに眠さ指数は前作よりもアップしてます。もうちょっとメリハリつけて欲しい気もするけどそしたらこのバンドじゃないくていい気もして難しいところだね。インタールードなしで全13トラックも長いよ。