GVVC Weekly – Week 281

illuminati hotties – Can’t Be Still

イルミナティ・ホッティーズが単発のニューシングルをリリースしビデオ公開。最初のまるまる1分間は音楽始まりません。
もはやプロデューサーとしての名声の方が勝っている感じもあるが、この名義ってホント良いと思うし裏方でのグラミー・ウィナーでかつ自身の音楽それも実質的ソロプロジェクトが一線級の人ってそんなにいないだろと。
サウンドの方はプロデュースワークで絡んでるSadie Dupuisのソロとかいわゆるリズ・フェア、ジュリアナ・ハットフィールド系譜の90’sオルタナポップでスーパーにアメリカ的な鳴りですが、差し込まれる甘めのコーラスや薄く入るクリーンのバッキングギターにファズの質感など、細かいところのテクスチャーがほんと絶妙で流石としか言いようがない。メロディは必要十分な感じで見た目もショボくないと、これといった弱点がない感じです。そんなエンジニアいるかよ!


Washed Out – The Hardest Part

ウォッシュト・アウトが引き続きSub Popからの新作アルバムをアナウンスし最初の先行曲をビデオ公開。
もう15年選手、Mexican SummerのEPから1stアルバムでSUB POPに移籍以降も途中1枚だけLeaving Recから出したりとサウンドも色々変遷してきましたが今回のスタイルも中々新機軸というか、かつてなくオーセンティックな微エレクトニックポップ楽曲。しかし旋律の雰囲気自体は実は最初のチルウェイヴ期に最も近く、そこから深いリヴァーブの霧を完全に取り払ったかのような突き抜けたプロダクションになっております。一つ前の作品で先祖帰りはしてましたがそこから更に一皮向けて、正直これが試行錯誤してきた中で一番うまくハマっているような。楽曲の粒は脇においといてね。
また映像の方にもトピックがありまして、見りゃわかるけどOpenAIのSoraを全編で利用した生成系AI全振りのミュージックビデオということで海外の各所コメント欄でも非難轟々の激荒れ、同期として思うところあったのかYouth Lagoonからも名指しでぶっ叩かれてます。クオリティ自体と尊厳というか品位の両面でって感じですかね。業界の超名物ライター、イアン・コーエンからもネガティブコメント。
今は過渡期なんでしょうが、現状だとこのちょっと(かなり)不安になる感じがある意味でAIのシグネチャーとなってるわけですけども個人的には、そこが完全に解決する…つまり今回のケースのように人間やリアルワールドのマテリアルが大量に出てくる映画のカットみたいなテイストに於いて(ここ重要)、100%AI生成の映像とプロの人間による100%人力のクリエイションとで一切の区別がつかないというレベルにまで到達したらば、その時にはアリだなと思います。おそらくその時は来ず、そのクオリティを出すにはフルAIではなくAIアシステッドというレベルの利用に留まるんではないかと予想してますが。ちなみにサムネだけならマトモそうに見えるよね。


Why Bonnie – Dotted Line

Keeled Scalesからデビューアルバムをリリースしていたワイ・ボニーですがオースティンからブルックリンに大移動したようで、アー写もボーカル独りになり、レーベルもFire Talkに移籍しました。でもってとりあえず新体制お披露目の単発シングルがビデオで公開。
初期はシューゲイズのニュアンスも含んでいたところを捨て、1stアルバムではややボヤっとした音像で落ち着いた感じのオルタナに変化していたのですが、そこから更に少し溌剌としたというか明瞭な雰囲気のSSWインディロックになってきていて、劇的な変化とまではいかないものの、目指す方向性のメッセージはハッキリと感じられる一発。悪くないけど、個性という意味では少し減退した気がするから、この次どういうムーヴで来るのかな。
なお名義上正式にソロ化したのかは不明ですが直近のインスタ投稿なども見る限り演奏のコアメンバーは一部は続投している模様です。


Chris Cohen – Damage

Captured TracksからリリースしていたSSWのクリス・コーエンがHardly Artに移籍しての5年ぶりニューアルバムをアナウンスし最初の先行曲を公開。
この人はこの軽く温かい声がとっても特徴的だと思ってて10年以上前の1stからそこそこ聴いてきてますが、今回はより明確にジャズの要素が入ってきて勢いシックな装いに、それもちょっとミニマルでクールなやつで、ボイスのキャラクターとの対比が面白いことになってまして芸術点もアップ。この曲だけではまだわからないのですが、今まで歌やメロディはいいのにアレンジがちょっとダサめの事が多かったから今作はいっそLP全編でこういう路線にトライしてたら相当良さそうだけど、どうかな。

今週のLP/EPフルリリース

Jessica Pratt – Here in the Pitch (LP)

えーと4thになるのかな?正直自分が望んだ方向には進まなかったが、相変わらずのホンモノぶりで、歩く音楽というか真のアーティストSSWというのはこういうタイプのことであろう。彼女の存在自体が既にサマになっており魅力的。Drag Cityからは結局1枚だけだったか、前作からMexican Summer/City Slangで今回続投ってのはなんか凄くわかるサウンドというか、小手先のアレンジではなくムードや空気感の部分で一つ前の延長線上にある感じはする。
出た時にそこまで響かずここでは確か紹介していなかったと思うが、先行曲のオープニングトラックは60’sポップ風の新機軸でまさかのドラム入り。メロディもアレンジも全体的に今回ペットサウンズの影がちらつき、やや辛気臭い基本弾き語りオンリーっていう今までの音像から一気に脱皮してる。今回の路線が特段そこまでハマってるかは置いといて、声や息遣いの存在感はやはり格別なので完璧に彼女の音楽にはなっており、中々面白いもん聴かせてくれたというか、今後何やってもイケるんじゃない?という気にはなるね。でもやっぱ毒気というか、飛び込んでくるインテンシティ、鋭さみたいなものが削がれている気がしてそこがマイナスで、ミックスの質感含めて全体的に生温い。
個人的にはなんだかんだ圧倒的な純度で素晴らしいと思うのはダントツで1stなんだけど、一回でいいからフルバンド従えたアルバムも作って欲しいな。


Camera Obscura – Look to the East, Look to the West (LP)

ミラクル。リリース自体が10年以上ぶりなのに結構イイどころか完全に全盛期(15〜20年前)と遜色ないレベルの作品出せるって、いくら当時のプロデューサーと再タッグ組んだからってそうそう上手くいくもんじゃない、一体どうなってんだ。
まあこのクオリティは先行曲M-1とM-2の時点で紹介した通り確定的にわかっていたことで開けてびっくりの驚きではないのですがホント衰え知らず、エヴァーグリーンとはまさに君たち、音楽性そのまんまでフレッシュな瑞々しさ溢れるネオアコ理想郷のようなサウンド。絶妙にイナタいモッサリ感とメガネ文系全振りの世界観に新緑、陽光にきらめく噴水、走る犬…淡い夢みたい。特別な事は何もなく、親しみやすいメロディ主導の田舎風インディポップにピアノ弾き語りやオールディーズ風のオルガン主導曲など盛り込むことでよりタイムレス感もアップし間口が広がる。初期の頃にあったクセ強めの旋律がオミットされてる感じもするし、改良モダナイズ版の今作がむしろ最高傑作かもしれないね。まあ、単体でもズバ抜けて素晴らしいのは前述のリードシングル2曲だけでしたが。
しかし、こんな思春サウンドやってんの実際は相当なオバハンオッサンやで?まあベルセバもそんな劇的に衰えてる感じしないし、グラスゴーという地に何かマジックがあるのか、やはりこういう純ネアオコ・ギターポップというのは選手生命の長い音楽性なのかという感じはします。インディに分類される音楽の中では特にファンの年配率も高いですし。