GVVC Weekly – Week 291

Wishy – Sick Sweet

インディアナの男女ツインボーカルバンド、ウィッシーが来月リリースするデビューアルバムから三つ目の先行曲はLPオープニングトラック。
昨年末のEPもなかなか素晴らしく、確かウチで紹介もしたような気がする。そこから基本路線は大きくは変わってないが、もっとアンサンブルに重きを置き、勢いのあるオルタナロックに振った方向性へ進化しており、目指すサウンドがより明確になって純粋に強度が向上してます。
この曲に関してはシューゲイズがかなり強く入ってるオルタナで、ゴリゴリではないけどそこそこボトムは重くパンチのある音圧と比較的キャッチーなメロディということで初期のYuckに少しシューゲイズ入れたようなさじ加減は近年ありがちな路線ともいえるんだけど、その型の中で非常に高い打点を出している優等生的なトラック。目を見張る独自性やひっかかる歪さなどは皆無だが流石Winspear、盤石に素晴らしい仕上がりでしょう。


TR/ST – All at Once

トラストが5年ぶりの新作アルバムをアナウンスし先行トラックを公開。このあいだのシングルももちろん収録なのでこれが二つ目ですね。
活動開始からでいくともう15年くらいやっているはずですがアルバムは数えるほどだし、正直マヤさん(1stの後すぐ抜けちゃった)とのデュオが画的にも収まり良かったとは思うが妙にカルト的な支持を得ている彼。サウンドとしては大きく変遷したことはなく所謂シンセポップ~ダークウェイヴという範疇ですがたしかに孤高のカリスマ性は感じる世界観だね。
今回は少し珍しくメジャーキーの勢いポップなニューオーダー路線の楽曲になっていて、一時期のSmall Blackみたいな爽やかさすらあるスケール大きめのシンセポップはおそらくリード向きのサービス曲だけど、LPの中に一つくらいこういうのあっても全体が締まっていいかな。シンプルになったEmpire of the Sunみたい。
しかし、最初なんかアーツ&クラフツから出してたしトロントのイメージだったのですが、いつのまにかL.A.に引っ越してるのね。


Dawn Richard and Spencer Zahn – Breath Out

2022年にも連名のアルバムをリリースしていたドーン・リチャードとスペンサー・ザーンが再びタッグを組み引き続きMergeからの新作をアナウンスして先行曲を公開。
前作もなかなか素晴らしかったですが、どちらかというとシンセウェイヴ的な流れのアンビエントでした。ところが今回はそこからさらに洗練させてよりポストクラシカルに近いような趣までを湛える超流麗なチェンバー・アンビエントを展開しており、まだこのトラックだけでは全容は不明ながらも、現時点で前作とはかなり趣を異にしておりこれは期待できそうです。ジャケットも美しい。


Toro y Moi – Heaven (feat. Kevin Abstract & Lev)

多作のトロ芋さんが9月にリリースするもう何枚目かもわからない新作アルバムから新たな先行曲をビデオ公開。
今回はケヴィン・アブストラクトを客演フィーチャーしてますが何故紹介に至ったかというと何よりも、謎に近年一気に絶対的アンセムと化したあのBroken Social Sceneの“Anthems For A Seventeen Year Old Girl”のフレーズをそのまんま拝借しているんです。どことか言わないでもわかるレベルでそのものズバリ出てきますんでご一聴あれ。
なんつうか「リップオフ」とかではない、これ真にリスペクト溢れるオマージュというか仮に許可取ってなくても絶対に本人たちが文句言わないであろうと感じられる使い方、歌い方、仕上がりなんですよね。そう思わせたら勝ちだし、チャズさんって器用なDJ型のミュージシャンだからこういうの上手い。
原曲の話ばかりになっちゃうけど、もちろん当時から名曲扱いではあったしBSSで一曲選ぶならコレっていう最終候補2,3曲の中に入る扱いではあったと思うけど、曲名に引っ張られる部分もあってなのか時を経てここまでメインストリームにも認知されるレベルになるとは感慨深いですよね。

今週のLP/EPフルリリース

Cassandra Jenkins – My Light, My Destroyer (LP)

前作をあれだけ褒めちぎっておいてこれをレビューしないわけにはいかないよね。曲目上は13トラックであるが、うち完全なるインタールードが2つ、半インタールードがさらに2つで実質的には10曲の普通の尺のLPと変わらない。
最初の先行曲M-12が出た時にこれは最高の方向性に進んだと思ったが、開けてみたら今回は前作とは違い割とバラエティに富んだテイストの内容でそこに関しては期待を裏切られる。
1stは鳴かず飛ばずで(じっさい全然良くない)2ndで俄然、最高格のアーティスト扱いになったその次ってそりゃ難しかろうと思うけど、そこを考えると十分に及第点だし変に力は入っておらず自然体な仕上がりで声と歌い方は相変わらずホント素晴らしい。楽曲の粒もクオリティコントロールOK。
具体的なサウンドの話をすると、高く評価された路線を踏襲したポエトリーリーディングの入るアンビエントフォークにニューエイジの入ったソフィスティポップの雰囲気を強くプラスしたところまでは良かったが、さらにすっ飛ばしてインディロックまで入れてきた。しかし、M-2くらいのモノならむしろ良いが、M-9レベルにオルタナ然とした楽曲まで入ってくるのは流石に幅持たせ過ぎというか、並べて入れられると個人的にはノイズ。別のアルバムでやる分にはいいと思うけどね…。7曲目(おまかせ)のあとOnly One持ってきてそのまま終わってたらな。
正直もう一枚、純粋なブラッシュアップ版を出してからその次に広げるんで良かったと思うが、いろいろ出来ちゃう人なんだろう。コンテンポラリーなエッジをある程度オールドファッションに落とし込む折衷点がちゃんと芸術的に、作家性を伴って上品にかつポップに提示されてるって凄い事だと思うし、最も注目してるミュージシャンであることには変わりない。さじ加減的に次は前作と今作の中間くらいのところでお願いしたいかな。