GVVC Weekly – Week 297

Chat Pile – Masc

10月にリリースされるチャット・パイルの新作アルバムから二つ目の先行曲がビデオ公開。
これがなんと更なる進化を見せる超スーパー会心の一発なトラックで、シグネチャーである切迫したシャウトを最終盤まで封印した構成、爆発後の刻みの重さとドン・キャバレロ路線のマスロックまでを飲み込んだ最新型のメタリック・モダン・ポストハードコアサウンド。
武器である部分は全て据え置き以上のまま、特別ギターの音作りに前作からより一層、磨きがかかっており、深めにコーラスかましたクリーンからスラッジの歪みにSE的扱いのインダストリアルノイズまで惚れ惚れする演奏、飛び出す全てのパート、フレーズが格好良いのです。これは既に傑作だった前作LPを超えてくるかもしれません。映像の方も二重の意味で力入っており、非常にイメージに合ってます。
曲には関係ないけどボーカルの奴、いつもかは知らんけどライブでよく上裸なの何かウケるね。下は短パン。


Maraschino – Rosy Boas

元Pearl Harbor、もといPuro Instinctのパイパー・カプランによるマラスキーノがニューシングルを公開。
当時のL.A.においてアリエル・ピンクやナイト・ジュエル周辺シーンに属し姉妹ユニットで一斉を風靡した彼女ら、解散?後も姉ちゃんの方はなんだかんだ細々とやり続けてまして一応出す曲出す曲チェックはしてたのですが、これが今までで一番良いです。
基本的にはシンセポップというところになろうかと思いますが、往年のパールハーバーらしいコーラスワークやメロディが今回は特に全開で、少しだけミュータント・ディスコというか胡散臭いインディダンスのニュアンスもあり、一時期のNot Not Funに居たような音楽をも少しキャッチーにしたようなトラックになってます。このレベルのクオリティやれるならフルレングスも出して欲しい。


Laura Marling – No One’s Gonna Love You Like I Can

ローラ・マーリングが10月にリリースする新作アルバムよりこれで2つ目の先行曲ビデオが公開。全てのアルバムをアナログで持ってますが正直、近年の作品の方が良いという珍しいタイプです。
今回は少しノスタルジックなピアノ入りの2分ジャスト小品で、美しく力強いボーカルにシンプルな愛のメッセージが胸を打つステキな楽曲。スマホで鏡を写すカットが頻繁に挿入される映像がなぜかしっくり来て印象的でした。
しかし、これが娘さんが生まれてから初のフルレングスになるのか、その3年くらい前のタイミングでSong for My Daughterってタイトルの作品(前作LP)出してるの未来視みたいで面白いよな。しかし、相変わらず綺麗だね…。


Geordie Greep – Holy, Holy

つい先週あまり穏やかでは無い雰囲気で半強制的(?)に突如解散となったBlack MIDIですが、
フロントマンのジョーディ・グリープが早速ソロアルバムを正式アナウンスし先行曲がビデオでお披露目。
ドラム以外はほぼ自分で演奏しているようで、それにしてはそこそこリアルバンドっぽさが存在しておりなかなかスゴイです。オーセンティックな歌物ジャズ・ファンクをパンクロック化したような楽曲で、スーツにスタンドマイクで歌うようなスタイルを戯画化した感じのテイストになっていて映像もまあそんな感じなのですが、非常にサマになっており取ってつけたような雰囲気はなく完成度が高い。個人的にはブラック・ミディ時代よりもこの路線の方が遥かに好みだし、ソロありきの内容ではなく感じるのでこの音楽性で本格的に次のバンドを編成してったらいいんじゃない。
ただ、まだ1曲だし全体的な路線が非常に気になるので早く他の楽曲も出ないですかね。なお早速ですが来年2月の来日公演も決定しています。


P:ano – a bit of coquitlam

ニコラス・ケルゴヴィッチがGigiどころかNo Kidsよりも更に前にやっていたバンド、ピアノがまさかの再始動、来月リリースの新作アルバムをアナウンスし最初の先行曲を公開です。
discogsにたどり着くのすら難しいこの検索泣かせの表記本当に勘弁して欲しいところですが、やってたの20年とか前のレベルですしまあ不問として(?)内容の方は空いた期間を考えるとある程度当然かもしれませんが当時の方向性とはかなり異なり昨今の彼のソロ作やジョゼフ・シャバソンとの一連のコラボ作の雰囲気を相当程度加味したサウンドになってます。
前からこういう曲もあるにはありましたが、元々Decemberistsとかみたいな少しミュージカル調のオルタナカントリーだったり、とっ散らかったアートポップ〜ポストパンクぎみのものまで相当ゴチャゴチャしていた印象だったのが一気に洗練され、ソフトでジェントルにきめ細かやかな質感のとても聴き易いインディ・チェンバー・ソフィスティポップに進化。
個人的にこの人はソロよりバンドの方が良いという評価なのでバンド復活は嬉しい限り。本当はNo Kidsの続きが聴きたいところではあるのですが。

今週のLP/EPフルリリース

SPIRIT OF THE BEEHIVE – YOU’LL HAVE TO LOSE SOMETHING (LP)

引き続きSaddle Creekから。EPや細かいリリースはあったからずっとアクティブだった印象だけど、フルアルバムで考えると前作から3年4ヶ月も空いてるってのが意外。
個人的に前作はちょっとやり過ぎだと思ったし、唯一無二の音楽性ではあるけど元々の良かった部分が多少削られてた上に暴発するクリエイティビティを制御し切れていない感じがした。そしたら昨年のEPで少し洗練され理想系に近づいたかなというところで満を持しての新作は俄然、期待しちゃうもの。
で、気になる内容の方ですがまあ多少なりとも整理はされたと言ってもいい。電気つけてない部屋でテレビをザッピングしてるような不健全カオスなイメージは正直そのままどころか下手したら悪化してるが、ミックスとレイヤリングが前作よりもシンプルにソリッドで焦点が定まったタイトなサウンド。でもやってることは超がつくエクスペリメンタル・ポップです。浮遊感のあるメロディやオルタナロック然とした展開も局所的にはあるがキャッチーにまとまったラジオ向け楽曲は一つも無いし、そもそも1曲の中でもかなり無茶な転換があるのに全部のトラックが曖昧に繋がったような構成なんで、切れ目なく進む鈍〜い悪夢的アートロックといったところ。スムーズにLP通して聴けるし、長いこと聴いててもそんなに疲れなくなったのはめちゃ進歩だよね。
正直、楽曲のバランス的には二つ前のアルバムくらいのさじ加減でそのままクオリティだけを向上させたものが聴きたいんだが、多分これはもう戻らないだろうな。実にミュージシャンズ・ミュージシャンという感じで業界内の支持が強いのもわかるし本当に独自性はある芸術作品だが、も少しサービスしてくれてもいいじゃん。しかし、ほんの5〜6年前までTiny Enginesからリリースしてたとはおよそ思えない音楽性だわ。