ユタ州プロボのSSWエマ・ハーディマンのプロジェクト、リトル・ムーンが10月にJoyful Noiseからリリースする新作アルバムをアナウンスし最初の先行曲をビデオ公開。
いわゆる典型的SSWバンドというタイプよりもうちょっと豪華にシネマティック~オーケストラルな装飾が施されたタイプのインディフォーク・チェンバーポップで、何と言っても特徴はボーカル。ローレン・メイベリーとかの声質をマイルドに落ち着かせたようなタイプで抜けと柔らかさの同居した素晴らしい歌唱です。
アレンジ面では全体的に割と穏やかというか朗らかな自然系イメージの楽曲なのですが、バックで乱舞するクラリネットが異常に目立っていて、さらに後ろにはかなり揺れ物がかかったギターやストリングスパッド的なポジションのサウンドが何層にもレイヤリングされており、入ってる音数はかなり多く、派手な編曲です。これはちょっと面白い音楽性ですね。
My Wonderful Boyfriend – My New Shirt
NYのニューバンド、マイ・ワンダフル・ボーイフレンドが12月にリリースするEPからの先行シングルをリリース。どうやら今回含めてまだ3曲しか世に音源をリリースしていないフェーズのようです。
広報機関としてはインスタがあるのみであとはただ楽曲をストリーミング配信しているだけのスタイル、この最新世代の体系的に情報を整理しようとしない(させない)スタイルってどうしても不便さを感じるのはまあ置いといて、内容の方は基本いわゆるペイヴメント派生の正統USインディロックに位置しつつも少しだけエモ入ってメロディは極キャッチーにはじけるという近年あるあるどころか完全に型として定着した音楽性。
目を見張るようなオリジナリティはないですが基本を押さえた手堅い作りの上で細かいアレンジに気が利いており飽きずに聴けるギミック豊富な一曲で、少しマイルドにした最初期Cymbals Eat Guitarsといったような雰囲気ですね。
正直バンド名がメチャクチャB級なんで怪しいですし、前に出てる2曲はもっと軽くカワイイ感じというか少しパワーポップ化したAcid House Kings路線もとい日本で言うとネオアコに分類されかねないような範疇のものだったりするのですが、今後はどうなっていくのでしょうか。
今週のLP/EPフルリリース
COLD GAWD – I’ll Drown On This Earth (LP)
音は違うけど方向性に対してのミスマッチなナリというキャラクターが被り気味のEnumclawと新作アルバムが同日リリースという偶然、しかし内容はこちらに軍配です。
大きくは変わっていないものの、先行曲M-3を紹介した時にも書いた通り、前作よりも少しだけ丸くなり間口を広げにいった進化版コールド・ガード。
メインの要素としては疑いようなくシューゲイズですが、ドリームポップ的な雰囲気は限りなく薄く、グランジを突き詰めてノイズロック、果てはブラックメタルまで行った先に戻ってきたような感じのサウンドで、深い歪みとダウナーな雰囲気に甘過ぎず辛過ぎずなメロディが絶妙なバランス。決定的に目新しいことをしているわけではないのですが、自分らの音楽性をしっかり確立している強度の高いアンサンブルで実に説得力があります。ただライブはめちゃくちゃ音が悪そう、中音(なかおと)デカすぎて外からボーカルが全く聴こえない系に違いないでしょう。
しかし、こういう明らかに見た目怖いオラつき気味のお兄さん達が普通にシューゲイズやるようになられると陰キャの立つ瀬がないというか、オタク嗜好の一般化に近いものを感じますわ。
It Thing – Spirit Level (EP)
ふむ、一応はポストパンクが最も近似値であろうが、典型的なその範疇には収まらない振り幅を感じる少し面白い音楽性。あまりウチで紹介することがない路線のバンドで、ちょっとライオットガール系のボーカルが個人的に苦手なタイプでありその点かなりマイナスだが、それ以外のパートが中々に素晴らしいので十分お釣りが来るかな。
高速2曲・中速1曲・低速1曲のトータルランニング10分そこらなので情報量が絶対的に不足しているのだけど、高速の時はあそこまで猪突猛進型ではないがMakthaverskanだとかにやや近い感じで、ポストのついてないパンク〜アートパンクだったりの土台の上に揺れモノがかかったギターが入ってボーカルにも結構空間系を深めにかますという音像。ゆっくりの曲ではLove is Allみたいな感じになってるかな。楽器隊が非常に優秀ですが特に一番イケてるのはベース。コーラス増し増しのギターとの絡みでOMNIとかあの手に聴こえる瞬間も。ちょっとこのサウンドのままアルバム聴きたいので継続して欲しいです。いいバンド。
Why Bonnie – Wish On The Bone (LP)
Keeled Scalesからの前作デビューアルバムが非常に良く、ここでもレビューした記憶がある。そこからFire Talkに移籍しての2nd。
先行曲を紹介した時にも書いたが、ソロ化したのか?アー写が単独になり、音楽性もバンド感が薄れ、ややSSW風の路線に変化。ミックスが明瞭になったのはそれはそれで良いんだけど、オリジナリティに関しては正直、明らかに前の方があったよね。
元々サブジャンルの色付けが少ないアーシーなオルタナカントリーを曖昧に演奏してる感じでスロウコアみたいな雰囲気までも醸し出してたのが、そういうバンドアンサンブル的な機微を失うと無味乾燥気味になるのは止むなしなのか。いや今回も全編フルバンドでの演奏ではあるのですが、何ていうかコンポジションがね…新しく入ってる共同プロデューサーがいけないのか、常に変化しようというトライの結果かわかりませんが。もちろん悪くはない、ボーカルやタイム感は変わらずいい感じなんだけど…やっぱ純粋にアレンジだよな。
とにかくこれは悪い意味の中庸化。しかしこれが半メジャーの大手レーベルに行ったってのならこの変化まぁ理解できるんだけど、ファイア・トークでどうしてこうなったんだろう。ともかく、次は更に変えるか元に戻してくれることを期待して引き続き注視です。