GVVC Weekly – Week 299

Julesy – Left Behind

ボストン出身、現在はブルックリン拠点のSSW、ジュルジーが2021年初頭にリリースしたEPのオープニングトラックを再録しブラッシュアップバージョンとしてビデオ公開。
歌唱や楽曲構成の部分ではそれほど変わらずほぼそのままと言っても過言ではないですが、いわゆる宅録デモのようなプロダクションだったのがフルバンドによる演奏となり、オケ隊による細かいフレージングも加えられて一気に鮮やかに息が吹き込まれた素晴らしい仕上がりに。
コーラスのかかったニューオーダー系ベースが動き回る、ギターの存在感が大きいタイプのレイト80’sニューウェイヴ・ポップみたいなアレンジで最近のコンサバなALTポップを展開した感じのトラックなのですが、何といっても一番はこのボーカル、すごい声じゃない?コケティッシュ系と鬱陶しい系がミックスされ締まったハイトーンかつアタックのエッジがきつ過ぎない絶妙な声。
まだかなり若そうだし、ルックスも中々パンチ効いてるのでコンスタントにこのレベルの曲出せるなら今後の展望は良好そうだけど、前EPはこの曲しかてんでダメなんで次のまとまった作品が試金石かな。Caroline PolachekやJapanese Breakfastあたりに影響受けてるらしくナルホドですね。


Devarrow – Bus Baby

カナダはノヴァスコシア州ハリファックスのデヴァロウが10月にPaper Bagからリリースする新作アルバムより4つ目の先行曲ビデオが公開。
こちら、フリーでフォークロアな雰囲気のあるモコモコした音像のインディフォークロックになってまして、ゆるやかにシャッフルするとても良いメロディの楽曲です。初期のFleet Foxesから敬虔な雰囲気を消して親しみやすくウォームに調整したようなサウンドですね。
基本的に中心人物とメインの相方ほぼ2人だけで作っているようで、ベースとドラムがほとんどの楽曲で同一人物というのがナルホド顕著に影響出ており、完全生音のプロダクションにも関わらずちょっとこじんまりした宅録感というかリズムのクセ違いによるズレが発生していないぶん面白みには欠けます。4,5人の本当のバンドにしたらかなり良くなりそうなんだけどなぁ。


Tusks – Body Ache (Synths and Strings)

ロンドンのエレクトロニック・ALTポップアクトのタスクスが直近アルバム収録曲のストリップト・ダウンバージョンで構成されたEPをアナウンスし先行トラックをビデオ公開。
いわゆるビートレスでシンセ/ピアノの弾き語りにストリングスのバッキングが入るスタイルでリアレンジされたタイプのスピンオフ作で割と良くあるような企画ですが、結構エレクトロニック主体の人がやるのはあまり印象になく、しかも彼女に関しては原曲より圧倒的にこちらの方が映えます。
オリジナルがそんなにレフトフィールドではなく、軽薄なエレクトロポップでもなく半端な雰囲気で、少し悪い意味で中庸でオリジナリティがあまりないためなのですが、根幹となってる楽曲が悪くないというのがこうして判明するのは面白いですね。


Ivy – All I Ever Wanted

アダム・シュレシンジャーが亡くなったのは何年前だったでしょうか、ついにアイヴィの最高傑作アルバムが再発されます。明らかに一番良い作品なのに今までヴァイナル盤がそもそも存在していないという意味不明な状態でしたがそれも遂に解消されるでしょう。そしてこの再発に際して初出し曲のボーナストラックが収録される模様で、それが公開されました。
LONG DISTANCEのリイシューなのですがサウンドからも明らかなようにこの曲はそれより前の時期のもので、Apartment Life制作時期の音源とのこと。なるほど1stと2ndの過渡期(だいぶ2nd寄り)のようなさじ加減なのがあまりにもドンピシャ過ぎて面白いですね。
しかし、も少しこんなギターポップ路線を継続してたらどうなってただろうね。いまひとつ過小評価な気がするバンドですが、今、同名の女子デュオが日本で流行ってます(局所的)ので、この機会にこちらも是非。

今週のLP/EPフルリリース

Peel Dream Magazine – Rose Main Reading Room (LP)

先行曲をいくつか聴いて期待していた。一介のマイブラフォロワー亜種的サウンドであった初期から物凄いスピードで進化し、あれよあれよとオリジナリティのある音楽性を確立していく様は軽く爽快で、それがついにここに極まれりというか、タイミング的にも成熟度的にもその流れのいったんの終着地点。
初期の頃から一貫して変わってないのはこの浮遊感のあるメロディで、旋律とコーラスの重ね方はいわゆるステレオラブ的な雰囲気を醸し出す。実地的なサウンドとしてはもはや死語だが一時代の「トイトロニカ」を人力でやっているような感じ、moor music周辺を少し彷彿とするような部分もあり全体的に非常にコンテンポラリーな響きで、音楽サブジャンルのラベリング細分化が進んでいなかった当時であれば歌ものエレクトロニカに分類されているであろう代物。Lali Punaみたいな瞬間もある。
本人たちはタグでliving room musicを自称しており言い得て妙、そこはかとないラウンジ感もありBGM適正がとても高いし、なんていうか…シューゲイズのメロディで歌うエレトロニカ・クラウトロック・スティーブライヒ・チェンバーポップといったらいいかな。これは本当に面白い音楽になったね。