GVVC Weekly – Week 300

Goat – Goatbrain

スウェーデンの覆面バンド、ゴートが10月にリリースする新作アルバムから新たな先行曲が公開です。
OSTやライブ盤が多い印象で、そのへん除外するとプロパーLPとしては6作目くらいのはずですがここで満を持してのセルフタイトル、ズバリのGoatと銘打った今作。この楽曲において方向性に目立った変化はなく彼ら流のフォークロア・サイケデリックロックが展開されていますが、今回はいくぶんシンプルめな構成でミュートのリフを主導にひたすら引っ張っていくミニマル・グルーヴが深く考えずに踊れる一曲に。シグネチャーとなっているシャーマニック・トライバル感もちょっと控えめかもしれないですね。
どんだけミステリアスなセルフブランディングしてVooDoo呪詛サイケ展開してもどうしても北欧の性なのかエグみが程々であっさり聴き易い部分があり、そこにいつも面白さを感じるのですが、音が変わっていってる印象はないしカルト的な評価が安定してもう久しいですから、いいかげん本人ら的にもバンドアンサンブルが極まったというか、ある種の手応えを感じてるのでしょうか。

今週のLP/EPフルリリース

Nilufer Yanya – My Method Actor (LP)

地味ながら着実に進化しつつも安心安定のクオリティ。あまりにもハズさない女、ここまで来ると軽くコワイです。
初期からの通奏低音としてスモーキーでそこはかとな〜くやさぐれた雰囲気は据え置きながら前作で少しUKかつNinja Tuneらしくというかエレクトロニックまでは行かないまでもトリップホップ風味を強化したりしていた部分は既に薄れ、当初イメージ通りのオルタナ風ストリート・ソウルという路線をより純化させた仕上がりに。しかしバックトラックは一層生々しく、不意にストリングスまで飛び出したりと奥行きを持たせた表情で、軽く宅録風味もあった1st辺りよりかなり説得力がありリッチな質感で純粋にクオリティが高い。
あと、この人の場合あまり会心の1曲だとか、必殺メロディのシングル曲とかで全体を底上げして引っ張るタイプではないので、サウンド面をブラッシュアップするだけで常に過去最高点を更新できるのは強いね。あるあるの「音は良くなったけど、やっぱあの有名曲のインパクトに負けるよなぁ」とは一切ならない。これでまだギリ20代、末恐ろしや。


ionnalee – CLOSE YOUR EYES (LP)

え〜、iamamiwhoamiの人って言ったらわかるかな。一応あっちはプロデューサーの相方ありきのユニットらしく、こちらはボーカルのソロみたいな扱いのようです。
まあそんなには変わってない、基本的にはオケがエレクトロニック寄りのALTポップってなトコロですが透明感、ヒヤリとしたクリーンな空気がいかにも北欧勢で、一番キャッチーな時のJenny Hvalを更にコンサバにしたような感じの内容です。サウンド自体に強い個性は無いけど、メロディがそこそこ秀逸でスムーズに整理された流麗なアレンジが聴き易く、テクスチャーが滑らかで実に上質な歌モノになっており令和最新版の美大生森ガール幽玄アートポップかな。
ちなみに同日リリースでタイトル違いのアルバムがもう一枚あったから何だろと思ったらタイトルから歌唱から丸々スウェーデン語にした版の同じアルバムも出してるみたい。まあ労力を度外視したらそれがある意味では正解な感じもするし、このスタイルがスタンダードになったら面白いね。


Kraków Loves Adana – I Saw You I Saw Myself (LP)

個人的にクロマティックスの正統後継者というか、影響受けてるってレベルではなくIDIBがなければ存在すらしていなかったであろう音楽だとは思うけど、当の本家ジョニー・ジュエルがもうあんな感じなんで前を向いて行くしかないよね。
基本形は所謂シンセウェイヴ・シンセポップですが不思議とニューオーダー路線には聴こえず、コールドにも片足半くらいだけは突っ込んでいるかもしれない。ギターが中々にキモで、出ずっぱりじゃない(そもそも入ってないトラックもある)にしろ美味しいところを持っていくポジション。
先達と比べてサウンドのクオリティは負けてても、変なサスペンス・ホラー趣味は個人的に全くいらないのでそこが無いぶんビジュアルイメージ的な面ではむしろ上位互換まであるし、たまにとんでもなく刺さる歌のメロディが飛び出すあたり油断できない。
彼女の声が低いのが凄い良くて、基本オケもあまり高域にきらびやかなミックスじゃないので全体的にヌケ悪めの音場になってるようなきらいもあるのですが、最早そこが特徴とも言える。なんかもうこのバランスでいいから、もっと生楽器入れてもいいしトラックの質だけを上げてって欲しいかな。間違いなく歌心あるし、まだまだ伸びそうです。


Lunar Vacation – Everything Matters, Everything’s Fire (LP)

先行のM-2が素晴らしくてビデオの時も紹介したと思う。その曲のアレンジ面の印象だけでいくと、これまたご贔屓レーベルのKeeled Scalesからリリースというのは少し意外であったが、当時レビューした通りでこのバンドのコンポジションは実質SSW的であるというのが答え。
オルタナとシューゲイズをインディポップ風の楽曲にミックスというフォーマットとしては非常によくある型ではあるが、それはシングル曲向けのよそ行きの顔。全体的にメロディはとてもナチュラルにオーセンティックで、自然なサウンドのみで構成されたギターにゆったり目のタイム感と、Sun June辺りに近いような部分もあり、中盤はスロウコア然とした佇まいが続く。
本人達がbandcampでタグ付けしている通りどこかchillな雰囲気を持ち、角を取りリヴァーブマシマシでドリームポップ的に淡く薄めていくという方向性とはまた全然違うベクトルで不思議なリラックス感があるのが特徴。
歌がちょっとまだまだ弱く、仕上がりの粒に悪い意味でばらつきがあるんで改善の余地ありありですが、リード曲であそこまでメリハリ付けれるのは強いし、方向性は気持ち良いですね。