GVVC Weekly – Week 305

Katrina Ford – World on a Wire

一時は4AD、その後Bella UnionからもリリースしてたCelebrationのカトリーナ・フォードがソロ名義のデビューアルバムをアナウンスし、リードトラックをビデオ公開。収録曲の中ではこれが三つ目となります。
ソロ作とは言いますが今回もバンド同様、本人は歌しか歌っておらず、全ての演奏はセレブレーションのメインのメンバーであるSean Antanaitisが行ってまして、ほとんどバンドの時と編成が変わらない事になります。
せっかく気分を変えてソロをやるのにバンドと完全に同じ背景で制作するのどうなの?とは思いますが、音楽性は少々趣が異なっておりまして、ちょっとチルなイメージのあるドリーム~ベッドルーム系のインディポップ風の楽曲を披露。これはこれで彼女のかなり独特なボーカルの魅力が遺憾なく発揮されており、バンド時代にはない味わいがありますね。


Nao – Wildflowers

UKネオソウル・オルタナR&Bシンガーのネイオが来年リリースの4thフルアルバムをアナウンスし最初の先行トラックを公開。
Alunaとわりと近い印象を受ける甘くしなやかで密度の高い声質が素晴らしくて初期から追っておりますが、この人はやはり良いですね。歌唱スタイルもソウル強すぎず、それほどパンチ力自体も強い方ではないのにメインストリームものとして考えるとあまりにもアッサリし過ぎたアレンジですが、メロディはキャッチーでフックに訴求力のある中々にナイスなソウルポップの楽曲です。旋律や音響、コード感などの組み合わせはKali Uchisの爽やか目の楽曲なんかにも通じる雰囲気。
あとは全編にもっとアブストラクトなトラックを挟み込んで1〜2曲だけこういうラジオ向けシングルが輝くような構成だと凄くハマりそうですけど、どうかしら。アビーロードスタジオ録音らしいですね。


Tomo Katsurada – Moshimo

解散?無期限活動休止したKikagaku Moyoの主要メンバー2人のうちの方割れ、桂田智が先月アナウンスしていたソロ作EPから二つ目となる先行トラックを公開。
前に出ていた楽曲はまだバンドの延長線上と考えても納得できるサイケロック色を強く感じるものでしたが、今回はよりレイドバックした音像で、アンビエントまでいかないにしてもドラムレスのソフトサイケフォークのようなトラック。
日本語で歌われる甘く消え入りそうなボーカルと粗く歪んだ太めのファジーなギターがストリングスのバッキングと溶け合い美しいバランスで均衡を取るナイスなアレンジです。本体バンドを紹介したことはないですが、この音楽性は非常に好きですね。


Maze Hunters – Devil

ブルガリア(!?)のバンド、メイズ・ハンターズがリリース(たぶん自主)した単発シングルです。
音楽性的にはクラウト系の塩味シューゲイズってところで最近ではなく以前のDIIVあたりと少し近い雰囲気ですが、本人らが自称するぶんにはポストパンクが主成分のようで、まぁそれもわかるし、常にリヴァーブ激増しなのでギターサウンドの響きはマクサヴァースカンをめっちゃマイルドにしたような感じとかに聴こえなくもない。
何で拾ったかと言うと、コーラスのパートがもう埋もれてるとかじゃなく完全にオケと同化してて、サブのボーカルパートだけが鳴ってるような音像でこれサビだけ主旋律のトラックをミュートしてんじゃないかって感じのミックスが面白いなと思ったのと、スタイリッシュにまとまったシンプルなサウンドが潔くて意外とクール。クセの強いオリジナリティは無いけど割と好きだな。


Chelsea Wolfe – Place In The Sun (Unbound)

チェルシー・ウルフが既発曲のアコースティック(アンバウンド)バージョンをメインとして構成されたEPをアナウンスし最初の先行トラックをビデオ公開。
なんか…こっちの方がダンゼン良くない?初期のゴシックフォークから近年のドゥーム~ポストメタル寄りのバンド路線を経てその集大成みたいなフルアルバムが今年リリースされていましたが、そこからのコレがなぜか異様な純度と輝き。
1周どころか2周回って遠回りして遂に結実したみたいな感じありますが、シンプルに悲壮感のあるサッドコア・バラッドで非常に美しく力強いトラックです。素晴らしい。

今週のLP/EPフルリリース

Hildegard – Jour 1596 (LP)

これはちょっと予想外に素晴らしい作品で個人的には伏兵でした。当然、Helena DelandにOuriという組み合わせなのでプロジェクト自体が初お披露目の時点から世に出すトラックはほぼ全てチェックしてましたが、いまひとつハマらず。前作のフルレングスも期待しているものよりエレクトロニック色が強めかつ非常にクローズドな雰囲気で、どこか散漫な印象だったんですよね。
そこから丸3年以上空けての2ndアルバムとなるのが今作ですが、全トラックに登場するパーマネントなゲストこそ居ないものの、全編にそこそこ生楽器の客演も迎え入れており楽曲の振り幅が勢い広がったことで比較的華やかな音像に。若干エクスペリメンタル寄りでちょっと低音太めのオルタナR&Bという基本路線は変わっていないのですが、随分取っ付きやすく聴きどころが明確になった事でより完成された雰囲気になりましたね。
基本的にクール側の音楽に属するとは思うのですが意外とウォームな質感も同居していて、メロディというか楽曲のクオリティ自体も高く、そこそこアブストラクトな印象を与えつつも歌物としての強度を損なわないという絶妙なラインです。これはほんと、これ以上キャッチーでもこれ以上突き放しててもダルくなる完璧な調整で芸術点高いですよ。名盤と言っていいレベルでしょう。オススメ。