Jefre Cantu-Ledesma – Gift Songs (LP)
今回はいつもよりミニマルな作風でシューゲイズは完全に封印。少しは入ってた方が面白いから個人的には嬉しいんだけどまあ、元々どちらかというとそこはオマケ要素だったからやむなし。1トラック目だけ20分の超長尺で、それを先行公開してたからトータルランニングタイムの半分をいきなしリードで開陳しちゃうことになってるよなぁとか思いながら聴いてた。
以前から少しはそのきらいもあったけど、明確にちょっとスピリチュアルなテイストも入ってきてて、その辺が目新しいポイントかな。結局なんだかんだ前述の20分のM-1が完全に目玉楽曲で、その後は慎ましやかなドローンの上にピアノが散漫と響く静謐なGift Songが3部続いての座禅ベースドローンでシメという全体的に組曲的な構成です。
ちょっと退屈な気もすると言いたくなるが、嫌な感じとかダルさはなく、不思議となんだかんだ流しとける。この人はね、ほんと品があるのよ。テクスチャーは結構尖ってる時もあるんだけど小さな部分のニュアンスとかメロディとかが繊細で非常に徳が高い印象を受けますね。しかし、Tarentelの人って気付くのに時間かかったよね。初期の頃からやってた音楽考えると色々納得だわ。
Beatrice Melissa – Secret (LP)
これ面白いなと思うのはまずこのジャケ写アー写からイメージする音では全然なく、UKガレージにちょっと北欧のクラブジャズ系ボーカルもの、そこにさらにフレンチポップの感じとステレオラブ的な要素が入ってるようなアウトプットになっててかなり独自性のあるサウンド。
それでいて、いわゆる明らかにクラブ音楽側から派生したようなソリッドにエレクトロニック然とした佇まいではなくてインディでも押し通せる絶妙な範疇におさまっており、考えようによってだいぶ強めのベッドルームポップもいけなくはない。正直まだ完成されてはいないし現状でメチャクチャ良いってほどではないんだけど、デビュー作だしこれから凄く伸びそうというかホント特徴ある音楽性してるからぜひブラッシュアップさせて確立まで持っていって欲しい。
レーベルはパリだけど音から見た目から本人らは明らかにパリ周辺ではなさそうと思ったが当然そうでストラスブール、ライン川のあたりってことなのか?ともかくドイツの影響が大きそうなのもなんか納得。
Nick Storring – Mirante (LP)
先行のM-1を紹介してたと思う。当時も書いたけど、自然派のアンビエントっぽい装いにしてはかなり多様なパーカッションの装飾が豪華で、実に手の込んだサウンド構築だなあと思っていた。
ところがどっこい、全体を開けてビックリしたのが、思った以上に遥かにリズムコンシャスだったということ。中盤なんかはもうアフロ〜トライバルレベルの打楽器天国になってて、装飾どころの騒ぎではなかったし、逆にむしろトータルでは言う程アンビエントでは無い。(自称のタグにもAmbientは無かった…)まあビートレスの完全アンビエントのトラックもあるにはあるのですが。(M-5)
そんなこんなで、LP全体の方向性を体現する先行トラックとして適切かどうかは置いといてやはりM-1が圧倒的に素晴らしいが、他も悪くないというか、傑作と呼べるレベルにある。ちょっとカルロス・ニーニョ周辺のテイストに近いような部分もありつつ、クラシカルとかポストロックが微かに入ってるあたりで差別化になってるし、なんかテクスチャーがウォームで優し目のナチュラル志向がドルフィンズ・イントゥ・ザ・フューチャーかと思ったら打楽器の音だけのストロングスタイル・ブラジリアンビートに雪崩れ込むという忙しい音楽性。(しかもそれで終わる)確かにエクスペリメンタルでもいいと思うしソロ・オーケストラルと自称してるのもまあ納得。
あとトラック分かれるでもなく1曲の途中で展開が変わる際に完全に1秒以上の無音静止する箇所がたまにあるという、ちょっとあまり見かけない編曲がなんかオモシロイ。そこが特に効果的で良いわけではないんだけど…なんかライブでのマニピュレーション上の都合なのかなとも思ったり。
Men I Trust – Equus Asinus (LP)
二部作らしく、同じくオリジナル新作のコンパニオンアルバムがまた年内にこの後出るみたい。とりあえずデジタルオンリー。後作とコンパイルしてヴァイナル出すのかな。
もう合間にツアーしながら音源はずっとほぼ一緒のシグネチャーサウンドをひたすら擦り続けるというフェーズで固定化されてるのであまり語ることはないんですが、一応今作はちょっと静かめの楽曲だけて纏めてるような雰囲気です。何が一番強いってやっぱボーカルだろうから、曲がなんぼ弱めでもまあ流しとくぶんに雰囲気はいいし、BGMとしては適当。ジャケット写真がメチャクチャ良いですね。
なんか…多分自分だけではないはずだが、ブレイク以降の歩みは正直期待していたモノとは違ったし、何か他にやりようはなかったのかと思ってしまう。本人らのマインドによるものだろうからそこを尊重するしかないけどね。これがもし数多あったであろう有力レーベルからのオファーに乗っていたらかなりの傑作を生み出していた可能性もあるし、それでむしろ悪くなるパターンもあったからそこはある程度、博打。バンド、音楽関係なく人生と一緒ですね。とりあえず今、音楽だけでじゅうぶん食えてるならば選択は正しかったのかもしれません。正直、細く長くとかではなく1枚でもより名盤が多く生み出されて欲しいリスナー側としては、その後は音楽で食えなくてもバンド継続できなくても、最盛期、勢い付いて引く手数多の時にいっぱつ盛大に打ち上げ花火残して貰ったほうが、その後ズルズルやられるより良いんだけど、それは他人事だから言えることさ。わかってるよ。
以上、今週は良いシングルがなくてアルバムレビューのみです。