GVVC Weekly – Week 333

Forth Wanderers – 7 Months

なんと、なんだかんだ静かに解散したとしか思えなかったフォース・ワンダラーズが引き続きSUB POPからとなる新作アルバムをアナウンスし先行曲をビデオ公開。
これは衝撃のリリースです。サブポップデビューとなる2ndアルバムをリリース後、予定されていたツアーを突如キャンセルし活動休止で音沙汰なしと、そこから7年…これが自称カムバックじゃないらしいですがそれは無理がある。ボーカルの客演出張などはいくつか目にした記憶がありますが、ライナー読む限り決定的な問題があったわけではなく、プレッシャー的なところでダウンしてしまったメンタルは時間が解決したようです。なお、先ずオープニングトラックが単発で公開され、その翌日に別の曲がビデオ公開&新作を正式アナウンスというあまり見ない流れでした。
前置きが長くなってしまった。内容の方はというと問答無用で過去最高、と言いたいところですが前作の伝説級ミラクルソング「Not For Me」を除けば過去最高の楽曲ですね。抑圧された雰囲気が薄れ、今を楽しんでやってる感が伝わってくる開放的な演奏と、最大の武器であるこのボーカルをより魅力的に聴かすアレンジ&ミックスで限りなく100点に近い、コレだよコレという仕上がり。
元々それほど色濃かったわけではないですが、もはやオルタナという雰囲気はなく、一つだけラベルを選ぶとするならUSインディロックが妥当かな。ギターサウンドに色付けが少ない生々しいタイプなので、小手先の部分で特定のエッセンスをなぞるとうより独特のフレージングやリズムの抜き差しでシグニチャーを作り上げていくというバンドとして理想的なスタイルですね。この曲に関してはまず間違いなくジャムから作ってます。
なんだかんだ少しだけemo入ってるスパイスと、どうしても精神的な不安定さを感じる声色なのが芸術点をアップさせてるのは相変わらず。久しぶりに集まって自由にやったら作為的ではなく、自然とリスナーに求められてるものが出ちゃったって感じの偶然っぽさもあり余計に素晴らしいです。もう1曲の方も路線は違いますが悪くない。これはLP全編通しても間違いなくいい作品でしょう、期待大!


Wednesday – Elderberry Wine

ウェンズデイが2023年のアルバム以来となるプロパー新曲を単発シングルでリリースしビデオ公開。
先頃、ツアーへの不参加を表明したMJレンダーマンも普通に参加してコーラスもしてる上に演奏シーンにもバッチリと映ってます。まあ脱退ではないので当たり前か。ボーカルと別れた&ソロが当たり忙しいのが理由でしょうからね。
内容の方はというと更にアメリカーナ色がアップしたオルタナカントリー風のそれほど抑揚も激しくないミドルテンポ楽曲ですが、あの異常に成熟したアンサンブルだけはそのままですのでバンド感は増し増しではあります。
さすがに、もう少しドライヴさせてもいい気がしてくるんですが、純粋にクオリティは高いしまぁ文句なし。なお映像の方ですがボーカルの地元の実在するバーで撮影され、父ちゃん並びに実際の常連客のみで構成されたキャスト陣という嘘偽りのないリアルが収められています。そういうのいいよね。

コルベアにも出演。こちらにもMJ Lendermanバッチリおります。ライブの方がいいね…。これね、サラっとやってるけど歌とレンダーマンのギターがユニゾンするとことか異常にジャストに自然に合ってますからね。ホントすごいよタイム感の共有が。もうBig Thiefとかそのへん並ね。


Madeline Kenney – Scoop

Carparkから来月リリース予定のマデリン・ケニー新作アルバムより二つ目の先行曲がビデオ公開。
LPでのオープニングトラックに配置されたこちらは清涼感のあるコンテンポラリーな装飾が施された軽い質感のインディロック・アートポップで、使ってる音数そのものは多めな割に空間を埋めず余白を生かしたエアリーなサウンドと、薄く膜を張った程度のドリームタッチという個人的に一番良い時のマデリン・ケニーです。ちょっとこうフレーズの端々に目立たない程度にグラニュラー系のディレイのテールを忍ばせるのホントいつも絶妙で、薄味のメロディとの相性もバツグン。
ライナー読む限りでは今作は未だソロ名義ではありますが、本人以外に前作のツアーメンバーのうち二名が正式メンバー並に全面的に参加しているようで、バンド体制のような制作行程だったみたいでちょっと楽しみですね。
でもさ、前も言ったと思うけどここ数作のLP、絶望的にカバーアートが悪いの何とかしてくれ。今回もホント酷いから出る前から欲しくなくなるわ。


GOON – Patsy’s Twin

L.A.の4ピース、グーンが7月にBorn Losersからリリースする新作アルバムより二つ目となる先行曲をビデオ公開。
3年くらい前のアルバムが結構良くて聴いた記憶がある。元々ちょっとサイケにガサっとした質感ながら甘く美しい雰囲気と歪みが共存するような音楽性でしたが、今回はドリームポップ~スロウコア風の淡くクリアなパートとダウナーなオルタナ、そして異常に重く深くファジーにぶち込むグランジパートが継ぎ接ぎで展開するオモシロ楽曲。シャウトもかなり気合入ってて、お遊びレベルではない本気の仕上がり。なんだかんだシューゲイズのニュアンスも間違いなくある。
昨年のシングルや一つ前のリードトラックもかなり洗練されてきていてミックスは随分ときれい目になったもんだし、独自のアレンジ面もより仕上がってきているんじゃないでしょうか。ちょっと期待できそうです。

今週のLP/EPフルリリース

These New Puritans – Crooked Wing (LP)

これは、純粋なプロパースタジオ作LPとしては5枚目になるのかな?正直、一つ前の作品の印象はほぼ無い。どうしても初期の、まだ女性メンバーがいた頃のイメージだし、それも確か全部で4人組だったような…といった感じで、ガッツリずっと追ってるわけではないけども、まぁそれくらいの心構えで私が聴いても今回は期待するものから逸段せず、なおかつ進化も感じさせるナイスな内容でなるほど納得のDomino復帰。
全体の半分くらいはビートレスのトラックで、2ndあたりから要素としては出して来てたちょっと優雅でコンテンポラリーな響きを強化したような路線はますます映画のサントラっぽく、オルタナティブ現代音楽という佇まい。ドラムが鳴ってる楽曲ではまだ当初のインダストリアル〜ダークポストパンクっていう風情も残してるようなバランスで、コレならもういっそ不穏なタイプの方向性はいったん全て捨て、新しい方に完全に振り切っても良い気がするんだけど、どういう意図でのこの着地なのかは不明だな。ちょっとチグハグなようにも聴こえる。
しかしなんだかんだしっかり特徴的というか、互換性あるレベルで同じようなサウンドの人らは他に思いつかないし、20年弱やり続けてるってのはやっぱそれなりだよね。形容としては、ばっくりアートパンクでもいいと思うし、漠然と頭に浮かぶのは「暗黒トリップホップを取り入れてメロディがしょぼくなったルーファス・ウェインライト」ってとこかな。なお、キャロライン・ポラチェックが地味に参加してます。
でもこの人ら、なんか出だしの頃のイメージが後々になって足引っ張ってるように見えるというか、Klaxonsのブレイク直後で当時の少し踊れるクラブ系生音ロックといったらいいのか、エディ・スリマン神!みたいな文脈で強く紹介されてた感じ(実際本人と絡みもあったはず、というかメインの兄弟モデルもしてたよね)が誤解の元。当時から異彩を放ってたけど、およそそういうレベルの作家じゃなかったですね。いやぁ、まだまだこの先も聴いてみたいな。