GVVC Weekly – Week 337

Just Mustard – POLLYANNA

アイルランドのジャスト・マスタードが2022年のアルバム以来となるプロパー新曲をリリースしビデオ公開。
特徴的だったメタリックと形容しても良いレベルの質感の重さはそのままに、前作ではみられなかったようなシューゲイズ系の疾走ニュアンスが大きく加えられており、印象がかなり進化してます。
以前はベースとなる殺伐としたダーク・ポストロックに対して、どちらかというともっと削ぎ落とす方向でアンビエントロック~スロウコアっていうようなタイム感とムードを醸成していたと思うんですが、ここで一気にキャッチーになりましたね。ボーカルの女の子をかなり打ち出してきた映像とあいまって、バンドからの強烈なメッセージを感じます。この最早サウンドエフェクトに近いような荒ぶるノイズシーケンスもメチャクチャ効いていて、音場が安っぽくならないように完全に機能しつつ芸術点アップ。素晴らしい!


Titanic – Gotera

ソロ活動も素晴らしいMabe Fratti擁するメキシコシティのアートロックバンド、タイタニックが2ndアルバムをアナウンスし最初の先行曲を公開。引き続きTin Angelからです。
傑作だったデビューアルバム(確か紹介したと思う)と同じくマベ・フラッティのチェロがキモとなるエレメントですが、今回はマシンガンのようなドラムサウンドが断続的に鳴り響く上で更に重層的な不協和音ドローンが被さったり、一転して静寂が訪れたりとかなりアヴァンな音像に進化しています。
派手なメロディではないのに存在感があり、なんかやけにポップに聴こえるボーカルの調子だけは前作のままで、そのせいかこれでも全体的にはそこまで突き放したような印象にはなっていないのが面白い。これは他のトラックがどうなってるのか俄然気になりますね。クレジット見る限りでまずビビるのはOPNがシンセ弾いてる曲あるし、ドラムは基本Eli Keszlerが叩いてるみたい。凄いな…。


Shaking Hand – Over The Coals

マンチェスターのシェイキング・ハンドが単発のニューシングルをビデオ公開。
7分の展開の中で90’s黎明期の、彩度が限りなく低い純粋でプレーンなポストロックにやや枯れ路線のミッドウェスト・エモをドッキングさせた面白いサウンド。これ、両者がもっと一体となったような形で溶け合ってミックスされてるバンドは結構多いけど、こんなに境界線をハッキリさせて二本立てみたいな仕様で共存させてるものは意外とみかけない。途中から歌わなければスロウコアでも行けた雰囲気で、インストパートのポストロックジャムはホントもう混じりっ気ナシな往年の感じ。Sonnaとかみたいな良い意味での無味無臭っぷりで、故アルビニ録音だとさらに磨きがかかるようなタイプかな。
ビデオやアートアークにはモダニズム建築(これがポストロックと相性が良い)への愛が溢れる。なんかサウンドから演奏から趣味から昔気質というか、オールドスクールな人らであろうということが伝わってきて安心するね。

今週のLP/EPフルリリース

Nathan Salsburg – Ipsa Corpora (LP)

確か2年くらい前かな、前作のアルバムも紹介した記憶がある。今回は趣を変えて、というかこっちが本来の姿で、ずっと追ってる人にとってはここ最近、特に変わり種ばかりをやっていたというような話らしい。
前作はそれこそCaretakerみたいな戦前のレコードサンプルの上に生楽器のオーバーダブでアンビエントを組み立てていくスタイルでしたが、こちらは純粋なアコースティクッギターソロの作品です。オルタナティブとかポストロックの文脈にないUSアコギ独奏作品というと否が応でもカントリー〜プリミティヴのラインを覚悟するが、それほどアメリカーナ路線ではなくてもっとニュートラルにナチュラル、John Faheyとかともちょっと違う、なんかホントいい意味のプレーンさが心地よい。
ごく軽いリバーブだけで積極的なエフェクトなんかは全然使われてませんが、不思議とアンビエントのニュアンスとインテリな雰囲気が香るのは何故だろう。ガシガシ刻まないまでも、決して弛緩しきったような演奏ではなく、そこそこ普通に弾いてる割にね。いや〜、この人、もっといろんなスタイルの音楽で聴いてみたいというか、バンドもやって欲しいし積極的な音作りのアンビエント作品もこの先、出して欲しいな。微妙で繊細なところなんだけど、絶妙に他には居ないバランスなんだよ。
あとこれ、明らかにアルバムだしちゃんと曲間のひと呼吸も存在している(完全に繋がってるわけでは無い)感じなんですが謎に1トラック仕様の40分。アクティブに聴きにくいからそういうのやめて欲しいんだけど、垂れ流しとけよというメッセージなのかしら。