Memoryhook @ Give me little more.
最後にENSでライブをした時、サポートでベースを弾いてくれていた井上くん。
彼はBoards of Canadaが一番のオールタイムベストで、他にはPortisheadや
Warp Recordsモノ等を好んでいたのだけど、Men I TrustがTailwhipを発表した時
パラダイムシフトが訪れた。この1曲と、Men I Trustの活動スタイルは井上くんを
DIY、宅録インディに開眼させる事となり、間も無くMemoryhookは結成される。
Men I Trust – Tailwhip この曲は確かに、人を目覚めさせるには十分な名曲
そのMemoryhookが、噂には聞いていた松本のGive me little more.でライブをする
というので、本拠地名古屋よりは比較的東京からのアクセスが良いという事情もあり、
去る5/19、急遽足を運んできたわけなんです。そしたらそこがね…、本当に凄かった。
Give me little more.は、長野は松本に大きく流れる美しい女鳥羽川沿いで、地元のバンド
TANGINGUGUN (タンギンググン) のリーダー新美さんが運営するDIY・オルタナスペース。
施工業者等の手を借りず、自分達で時間をかけ徐々に改装し完全DIYで完成させた箱で、
入ってすぐの細長いスペースは閉店した”シエラ”のカウンターを居抜きで使用したBAR、
そしてその奥には物販テーブルとフロアへ繋がる扉が。DIY情緒溢れるメインフロアは
アングラ感無く最高の雰囲気。後方に映画館のシートが並び (ドリンクホルダーが実用的) 、
電飾のぶら下がったステージはそこそこ広くて、演劇や講演会なども行っているよう。
看板メニューであるカレーや、豊富な酒類もかなり良心的な価格で提供されています。
当然ですが、集金のための平常ブッキングライブ等 (諸悪の根源) も一切行っておらず
運営スタイルから何から、所謂地方のライブハウスとは全然ワケが違うんですね。
海外アーティストの来日ツアーにおいて、長野場所を回る際はもうココでしょ、という
地位を確立していて、皆さんもその名前は目にした事があるんじゃないでしょうか。
地元のミュージシャン・アーティストが運営に関わるDIY・オルタナティブスペースで、
かつその主のバンド自体も素晴らしく地元からの信頼も厚い、という図式は…
今はなきL.A.のThe SmellとNo Ageのような関係性を思い起こしてしまうところです。
Neverhoods Neighborhoods #1と銘打たれた今回のイベントは、TANGINGUGUNに
シンセで加入しているイッセイさんの企画らしく、彼がブッキングした面子が出演。
直前まで街を見ていて、ボブ次男さんには間に合わず、Memoryhook直前に到着しました。
Men I Trustに触発されて始めたプロジェクトとはいえど、シンセは使わずに
リズムマシンとアンプ直のベースにギターと歌だけというミニマム編成の二人組。
足元にはエレハモのEFXがいくつも並び、少しディスコ・ティンジドなベースラインを核に
淡々と進むタイム感の音楽はかなりインディ・ドリームに寄ったモノではあるんだけど、
マヤさんの情念がまったく飛んでこない、楽器のような声の使い方がかなり効いてて、
決してロマンチシズム過多にならずどこかカラっとしてていい。甘すぎないんですね。
明確に得意じゃない英語で歌ってるという点は度外視しても多分そういう性質だと思うし、
これによりボーカルに丁度いい冷たさが付与されているのがサウンドを決定付けてます。
808のコンパクト復刻版にコンプとリバーブをかけたドラムトラックと、井上くんの
粘ってなくてコシのあるベースとの相性もいいし、案外と全体像も然程スカスカに感じない。
ブラッシュアップの余地はあるもののどこか既に完成系という様相も呈していて、納得感。
それとマヤさんがね、見た目なんつーかこういうのが好きそうな女の子ではないんですよ。
その辺も含めて異様。Tailwhipが世に出て間も無いタイミングで、Men I Trustのみによって
名古屋で引き合わされた二人というだけでも大概なんですが、本当奇跡のようなユニット。
インディに目覚めた10代の子達にもいい影響を与えられそうな手作り感を体現してて、
これは是非東京でも観たいと思ったね。続けて欲しいし、お手本たり得るDIYスタイル。
ちなみにライブ終了後すかさずDJによるMen I TrustのTailwhipがカットイン笑
一番ベース部分に感じるのはアーシーなUSインディで、Woodsist周辺を想起させる
クドすぎないサイケ味とアシッドフォークを纏った土臭いインディ・ロック・ジャム。
トレモロ+コーラスって感じのドリーミーなサウンドスケープを多用するんだけど
基本的に骨太で、鳴ってるバンドサウンド自体にかなり力があり、ボトムがしっかりしてる。
特にフレットレスベースの女性ボーカルの方が感心してしまうレベルで演奏力が高く、
自分たちのスペースで、普段からその場で練習を重ねてるって所も多分に作用してるとは
思いますがそれにしても、バンドの強度が一定以上になった時にだけ発現する、
全体のアンサンブルが一つの塊となって生き物みたいにぶつかってくるアレが出てた。
今まで生で観たので言うとAkron Familyとか31Knotsとかが出してたヤツですね。
男女ツインボーカルのハーモニーってとこもかなり重視してるっぽくて、
ド安定のリズムから、ちょい和風な感じのメロディがポッと飛び出すとこがまた素敵。
この辺がキャッチーというか、特に分かり易いかな。ライブと音源で少しイメージが違う。
ただ個人的には1曲目にやってた、歌の比重が低いクラウトロック感のある楽曲の印象が
強くて、カッコ良かったね。bandcampのこの音源には入ってないっぽいですが…。
シンセのイッセイさんは
cassette tape echoというバンドもやっているみたいで、これがまたイイのよ。
cassette tape echo – cool runnings
あのボブスレーの映画…?
GeGeGe
金沢からやってきたゲゲゲ。人を見かけだけでラッパーかどうか判別できる特殊能力持ち。
完全にBeach Fossilsなサウンドに乗せて、ややぶっきらぼう系の日本語ボーカルを展開し
歌詞に感情が乗ってくるという新しいスタイル。思っきし海外インディ志向ってところと、
純和製の日本語ロックっていうところは隔絶されたものという前提がなんか時代とともに
なくなってきてる気がして、少し変わってきたのを感じたんだよね。ちょっと新世代。
この曲とかは歌い方がめちゃ坂本慎太郎ぽい。
これはスーパーカーやろ笑 曲名もカーだし。
とまあこんな感じでDead Funnyからバンド系プロパー作を発表する一方、サンクラでは
サンプリング多用の宅録エクスペリメンタル・ポップ小品を不定期にアップ。そういう所と
厭世観、抑圧を強く感じる点ではTeen Suicide (American Pleasure Club) の彼を想起。
尚Jan Fluのタクローさんがサポートしているのを全く知らず、前日にSauna Cool Offでは
クボシンさんを見かけていたので、そこにも驚き。そういやJan Fluにも通じる所あるわね。
Jan Flu、この曲いいよね。
Give me little more.の近所にはMarking Recordsというレコードショップもあって、
WOODSと、Big Theifの新譜ポスターがガツンと貼ってある。
まさに、という品揃え。インディ新譜全般ですが、中でもややポストパンク系と
フェミニストパンク・ライオットガール系のものに特に強い感じがしましたよね。
出会って2分の人間にも余裕で腹部を見せてしまう程、人に慣れた看板猫。
というわけでGive me little more.、
DIY・オルタナティブスペースと聞いて、理想込みで想像する本当そのままが
具現化されてる場所で、これを雛形として他の日本各地でも参考にして貰いたい程でした。
このレベルで仕上がってる”インディ牙城”とシーンが各地方に1つずつでもあれば、
我々が目指している世界は実現できるかもしれないですよ、皆さん。
やはり箱から、現場から、というのを強く再認識させられた一件でしたね。
イベントのない日でも、わりと遅くAM1時過ぎまではお店を開けているようですので
松本に訪れた際は営業日を確認してGive me little more.に必ず立ち寄りましょう。
最後に
当時何か日本のfootageがいっぱいだなぁ、ボウリングの爺ちゃんカッコいいな
と思ってたこのアメフトのビデオさ、ロケ地が東京と名古屋と松本らしくて、
新美さんめちゃ映っとるやん。
American Football – My Instincts Are The Enemy [OFFICIAL MUSIC VIDEO]