改めて、ellis(エリス)のデビューアルバムから最初のリードトラックです。
Week 73でも長めの文章で紹介したばかりですが、初見から数日経過して
どんどん深みにはまっているというか、色々な想いが溢れ出て止まらないので
単独でも記事にすべく、筆をとってます。
ellisは、カナダ、オンタリオ州ハミルトンのLinnea Siggelkow(リネア・シゲルコウ)
によるプロジェクトで、2018年半ばに現れ、その後Fat PossumからEPをリリース。
(デビュー曲は当時、開始直後のGVVCでもピックアップしてました)
昨年2月の単発曲以降、動きがありませんでしたが、この度、引き続きFat Possumより
フルレングス作”Born Again”の4/3リリースが発表され、先行シングルとしてこの
“fall apart”がビデオとともに公開されたところです。
ellis – fall apart (official video)
Ellis – THE FUZZ (EP)
このEPではもっと曖昧模糊とした宅録系のサウンドスケープを展開していて、
シューゲイズ、サッドコア系のDIYインディに、少しゴシックでドゥームな楽曲なども
ありましたが、今回はそこから大きく飛躍し、ダークを捨ててまばゆいドリームゲイズ化。
SUB POP行った時のmemoryhouseを彷彿とさせる、柔らかく開けたポップなベクトルに。
ただ、それよりももっとハイファイです。
この曲の何がそんなに特別か?これがどんな音楽かを形容する時、
一言で片付けるのならばそれはもう、純然たるドリームポップでしかありません。
サウンドフォーマットとしての目新しさはないですし、どこも尖ってないですよね。
でも、ここまで耳障りよく、淡い光が零れ出すようなライト・シューゲイズのテイストを
フレイバー程度にまぶしたトラックと、程々にアンニュイで程々に感傷的な歌唱とが
俗悪だったり装飾過多だったりに全くならない、絶妙なバランスで上品に混ざり合った
メインストリームの音楽とも言えるような、コンパクトで美しい、甘く切ないポップス…
そうそうあるもんじゃないですよ。
もちろんこれは中庸とも言えますし、多分にコンサバな音楽ではあります。もはや
ユースカルチャーではないかもしれません。でも、インディの範疇ではありながら、
インディではないところまで切り込んでいけるポテンシャルがある、
丁寧にパッケージされた、繊細だけど強度のある素敵なプロダクションを感じるんです。
それは、音楽やカルチャーに、インディに、刺激やエッジさを求める向きには
『こんな音楽』と足蹴にされるようなものかもしれません。
でも私はこの楽曲を断固支持します。
別に、アングラな音楽を広めたいわけじゃないですからね。
GVVCでは普段のレビューから、街でかかってたら、店でかかってたら、
コーヒーショップや駅ビルのテナントでかかってたら…みたいな話をしてますが、
自分の本当に好きな音楽たちが、どうやったらもっとこの国で
普通に広く消費されていくようになるかな?
どういう形でならばリアルにそれが想像できるかな?といつも考えていて、
実生活の中で、自発的に聴いたり、観に行ったりっていうこと以外で
最も好きなものや、好きなものに近い音楽が偶然かかってるレコ屋以外の現場って
やっぱファッションビルとか、カフェ、アパレルショップとかになってくるんです。
当然そこでもFever Rayやドン・キャバレロはかかっていないわけではありますが、
TOPSやgirl in red、Real Estateならかかってる。
そして、インディだとか、ひいては洋楽に興味のないお兄さんお姉さんたちだって
それらを普通に耳にしているわけです。そこがないと始まらないの。
“意識してなくても耳にするような環境が存在する”ってことがホント大事で、
いくら僕らや、もっと発信力のある人がインディいいですぞ!ってネットで喚き散らしても
限界があるんですね。その、今はまだ彼ら、彼女らでしかない人たちの耳に直接
入っていかないといけない。その先で、彼ら、彼女らの一部が僕らになってくれるんです。
とにかく、『インディががっているもの』を世の中に遍在化させないといけなくて、
その伝播は、価値観や思想理念、DIYカルチャーという部分でもそうですが、
実際の音楽的な性質のところも二本柱で拡散していかないといけないんですよね。
そのためにはこういう、”普通の音楽”との親和性が高い、ハイブリッドなもの、
コンサバへの順応性が高いものも、もっともっと生み出していかないといけない。
分断された嗜好性の”繋ぎ”として機能しつつ、音楽としてのクオリティも高い曲。
それは意識していても、狙ってポンポン作れるものじゃないんです。
だから、奇跡的なものを見つけた時に、これが雛型、指標になりうるバランス、
黄金比なんだよと広めていくしかない。世の中の全てはグラデーションだから。
日頃から、そういう思考を巡らせている中で
この曲のコンポジションが燦然と輝いて聴こえたわけなんですよ。これは”宝”だと。
これ例えば、同じ歌メロのままで歌詞が日本語になってるのを想像してみてください。
エレアコ持った女の子が、Yuiくらいな感じで、あいみょんでもいいですが、
全然違和感なくイメージできるというか、しっくりくるでしょ?
まあ、日本のその手だと多分もっと思い切り歌い上げちゃうんでしょうけど、
単純にコード進行とメロディという意味では、J-POPと親和性があるんですよね。
リズムにギミックはないし、音もキレイで、ローファイでもなく、聴き易い。
何の変哲もないロック・ポップスに、混ぜられたオルタナティブのテイストは
慎ましやかなシューゲイズ・ギターだけ。歌唱が塩味なのも大きいとは思うけど、
あとはもう基本、ミックス的なところをドリーム煮込みしただけです。
その中でもキックが重めなのはナイス。
まあ、リズム隊をスローアタックかつ量感は重めに調整っていうのは
キャッチーな路線のドリームポップではスタンダードなんですけども。
私はこれ、このまま日本の恋愛ドラマでかけてもおかしくないと思います。
この湿ってて淡くナイーブな感じって、まさに文科系の恋愛ってイメージじゃない?
洋楽使うなら、テイラー・スウィフトより余程、これのがリアルじゃないですかね。
ちなみに歌詞の内容はこっちが恥ずかしくなるような恋愛の歌です。
多分、軽めのメンヘラで、恋人には悪い状態の時の自分を見せたくないんだけど
でもやっぱ本当に深い関係だとそんなの無理で、全部見せちゃう。
それで、本意じゃない事を口走ったりもするだろうし、なんていうか…
皆まで言うまい。でも、いいリリックです。完璧。
あまりにいいのでGVVC初の試みですが、全文歌詞対訳も掲載します。
ありがとうエリス。感動した!(小泉純一郎)
ellis – fall apart 歌詞対訳
secrets whispered in my ear
all the words i’ve been dying to hear from you
listening to my favourite songs
under the covers we hum along
耳元で囁かれた秘密は
あなたから聞きたくて 仕方なかった言葉の全て
お気に入りの曲流して 掛け布団の中 私達 ハミングする
lean it, but don’t look too close
there are things i don’t want you to know
and please
don’t watch me
unravelling
身を寄せて でも近くで見すぎちゃダメだよ
知られたくない事だってあるの
ねえ そんなにじっと見ないで
解れていく
but now you see me on my bad days
falling back into my old ways
spinning in circles in a black haze
i didn’t mean to fall apart
i didn’t mean to fall apart
でも今 悪い時の私を見せてるね
昔の自分に逆戻り 黒いモヤモヤの中で
キリキリ舞いをする私
だめになりたくなかった
そんなつもりじゃなかったの
fly high, then sink so deep
these feelings bring out the worst in me
thought i had it under control
but when it happens it swallows me whole
ハイになったと思ったら すぐに深く落ち込んで
こんな気持ちが 最低の私を呼び覚ます
制御できたと思ってた でも一度これが起こると
もう全部 飲み込まれてしまうの
get out! but don’t walk away
when you see what a mess i have made
and you
you’re watching me
unravelling
出てってよ! でも見捨てないで
あなたが 私の『めちゃくちゃ』を見ても
あなたは…
あなたが私をじっと見て 解れていく
and now you see me on my bad days
falling back into my old ways
spinning in circles in a black haze
i didn’t mean to fall apart
i didn’t mean to
on my worst days
falling back into my old ways
spinning in circles on the drive way
i didn’t mean to fall apart
i didn’t mean to fall
そして今 悪い時の私を見せてるね
昔の自分に逆戻り 黒いモヤモヤの中で
キリキリ舞いをする私
だめになりたくなかった
そんなつもりじゃなかったの
最悪な時の私
昔の自分に逆戻り 車道でグルグル堂々巡り
あなたと だめになりたくなかった
そんなつもりじゃなかったの