GeGeGe – また会おう (LP)
GeGeGe(ゲゲゲ)の新作がリリースされました。5年前に、当時リリースを控えていた前作アルバムからの先行楽曲「醒めた」があまりにも素晴らしく、ウチでも曲単体でのレビューを掲載して多少反響を頂いたり頂かなかったり。今だから言えるけど、そのあとのアルバム本編は正直、他の収録曲が先行曲に大きく差をつけられており個人的には評価できなかったんです。
今回の最初の先行シングル「光のサイン」は偶然、ビデオ公開の数分後にスピードキャッチし即視聴。これがまた5年前がフラッシュバックするほどいい仕上がりだったもんで、アルバムの出来次第では久々にレビューしようかなと思ってたわけ。
そして12/4のリリース当日を迎えたところでこれを出しています。結論から言うと今回はアルバム全体としても間違いなし、紛う方なき最高傑作キャリアハイになってますわ。
散々語られている事だろうけどまず歌詞は実に素晴らしい。読み物として秀逸という感じではなく、譜割り・節回しが圧倒的にセンス良いので、内容を解析しようと意識しないでも聴いてりゃ自然と頭に言葉が飛び込んでくる。単純に語り口の言霊っていう部分もあるかもしれないけど、修練で得られるスキルではなくほぼ才能なんでこれがあるのは強いよ。
まあボーカルスタイルに関して、坂本慎太郎の影響てのはさすがにあからさま過ぎて言及するのも憚られるレベルではあるのだが、サウンドが全然違うのでセーフという事にしよう。語る上でそのリファレンスの話ばかりになるようなら問題だが、現状いち要素でしかないからね。
あとこれあまり賛同は得られないかもしれないけど、方向性は英語圏のインディロックベースで歌詞はフル日本語、3分間ポップスの構造、ボーカルのキャラクターが強烈、割と繰り返しを多様する歌唱というあたりで個人的にART-SCHOOLを感じる部分が僅かだがあり面白い。
楽曲やアレンジ方向性に関しては当GVVC的に形容すると、ほんのちょっとだけサイケの入った純インディロック・インディポップ。オルタナやエモ、他パンク派生方面の要素は全く入ってないです。かといってシューゲイズやドリームポップも顔を出さない潔さ。
あくまで歌モノではあるんだけども、例えば全て弾き語りで作ったものが基礎になっているっていう雰囲気ではなく、ソロアーティストにありがちなフォーク〜SSWっぽさもないもんで、テクニカルには本当にインディロックとしか形容しようがない。でもそこがなんか逆にシグネチャーサウンドとなり、この歌がよりいっそう際立つという側面も。
独りでほぼコントロールしてるからなんだろうけど、どのトラックもとても合点のいく編曲というか、チグハグに感じられる部分がほとんどなくて隅々まで効果的だし、結構、理知的なアレンジ。いい意味で勢いに任せたようなところがない。あまり演奏技術がどうのこうのという音楽性ではないが、タイム感がいいのか、ベースとか特に地味に上手いよね。全体的にねばっこくて、8ビートでも直線的な印象になっておらずしっかり腰にくるビートで意外とダンス機能も備える。そのあたり、13曲トータルランニング51分は決して短くはないし自分の基準だと長尺の部類だけど、1曲がしつこくないのもあって何とかダレずに繰り返し最後まで聴けるかな。ギターの音色にツヤと振り幅が少ないのがちょっと懸念ポイント。
プロダクションに関して、半分以上の楽曲ではJan Flu兼任のタクローくんが生ドラム(MVになっている曲は全て生ドラム)を叩いてるのだけどこれが本っ当に効いていて、もしリズムトラックも全編宅録で仕上げていたら全体的にかなりこじんまりとしていたであろう。このお陰でベッドルームポップではなく、明確にバンドサウンドと呼べる音像に仕上がっている。
ドラム以外の演奏に関しては最初テキスト情報で予想してた以上にほぼほぼマジで水野くんが一人で演奏しており、オダくんやリンカイくんがギター、ベースで参加しているのはほんと一、二曲しかない。それでいてこの彩度はすごいよね。
個人的にアレンジを含めた楽曲のクオリティを完全に同一に保てるなら、全曲バンド演奏・録音に越したことはないと思うのだが、制作に深く絡む人数が増える程、往々にしてイメージはブレる上、リソースの問題、制作ペースなど課題は多い。かといって完パケまでぼっち制作すると密室感やプライベート感が出過ぎて開放感が大きく損なわれるし最早バンドではなくなる。
そういう意味でも今作はそのへんのジレンマを絶妙な妥協点(偶然の産物なのかもしれないが)で次善解決した、各パート正式メンバーで作曲録音にもフルコミットするバンドと、ワンマン宅録バンドの良いトコ取りハイブリッドバージョン。それって非常に現代的だし、ベンチマークとなり得るようなスタイルだと思う。
ひとつ今後の提案として、今回歌詞カードには詳細なクレジットの記述があるので、本人以外では誰がどれくらい実際録音に参加しているのかがわかるのだけど、ここに関しては正直、買う前の状態で誰もが確認できる公開情報にした方が良いと思うんだよね。自分が普段見てるようなbandcampだとそこに全部クレジット書いてある場合が多いし、演奏だけでなくミックスやマスタリングも含め、どこの誰がどのくらい実務に参加しているかが購買意思決定にかなり影響するっていうのもマーケットが成熟するには必須要件だし、海外インディオタクと邦ロック(敢えてそう書かせてもらう)好き双方に50/50でアプローチできる最強のミッシングリンクであるGeGeGeにこそ啓蒙活動に参加して欲しいところではある。
追記)ツイッターおよびインスタでクレジット公開されてましたわ。ごめん。でも発売日当日やね、欲を言うとアルバムのアナウンスの時点で欲しいかな〜。
個人的な水野くんとの思い出になるけど、5年前の2019年当時、松本での打ち上げで、まだめちゃくちゃ若いじゃん!みたいな話になった時、自らビリー・アイリッシュを持ち出して嫉妬(というか彼女の若くしての成功の規模と自分を比較しての歯痒い思い?)をしていた姿を考えると、GeGeGeのいまの現状はその時に彼がイメージしていたものと違うであろうことは想像に難くない。ちょっと活動が鈍化していた時期もあったとの事だし、色々遠回りはしたのかもしれないけど、このレベルの作品をリリースまで持っていけたこと、素直におめでとう。
おそらくアジカンあたりにはとっくに発見されているでしょう。これを聴かせられると、カルトヒーローにとどめておくのはもったいない。どうしても国内市場としてはある程度以上のマーケットを意識するとこの先も日本語詞というのが重要になってくるのでしょうから、その土俵に上がれるフォーマットでこんだけマトモな音楽やってるバンドの存在に、もはや何か感謝に近い気持ちよ。
これはもっとマスに知られていい。作家性はもちろんのこと、同時にそういう人懐っこさ、間口の広さを兼ね備えている。ウチでこんなことを書いてもほとんど何の影響もないわけなんだが、逆説的にウチなんかにも載ってるっていうのが他のどんな日本のバンドにもないモノを持ってる証左なんだよね。
GeGeGe – 光のサイン
最初に公開された先行トラック。完全なるウ○ト○マンのオマージュであるが非常に「らしい」内容。もう俺を「漏〜れ、漏〜れ、漏〜れ」と歌ったのは彼が初めてなのでは。
GeGeGe – また会おう
アルバムリリースと同時に公開されたタイトルトラックのMV。上野、上野、上野パートの挟み込み加減も素晴らしい。
やり過ぎず程々に、これ大事。結局そういうところの力加減が音楽にも通じるセンスである。
GeGeGe – 目が覚めても
二番目に公開された先行トラック。幼少期を過ごしたというインドネシアのジャカルタで弟さんによるシューティング。