GVVC Weekly – Week 156

Ghostly Kisses – Heaven, Wait (Official Video)

7月に久々のニューシングルを発表していたゴーストリー・キッセズが更なる新曲ビデオを
公開です。明確なアルバムのアナウンス自体はまだなんですがこれらの楽曲はどう考えても
そこに向けたものでしょう。今までサッドコア入ったほぼモノクローム、ノワールの美的
イメージ一辺倒だった世界観から一歩踏み出し、色彩を感じさせる光の開放感があります。
つまり、色々な意味でより本腰を入れたということ。ネオクラシカル系の響きが強いのが
この音楽を特別にしてて、シックな表情のボーカルとピアノ、ストリングスをベースとした
シークエンス群が、安易にドリーム系のライト・ダンスポップになってしまわないような
ある種の品格を保っている。サッドを捨てたこの新規路線はかなり歓迎で、サウンド的に
これで完成だと思うんで後はひたすらブラッシュアップして強度上げるとビーチハウス級も
あり得るんじゃなかろうか。やはりドリーム系の歌ものでありながら安くならない芸術性、
神秘性、品位を出すにはそれなりのクラシックでシックな趣が必要になってくるんだよね。


Uffie – cool (official music video)

あのアフィがなんとトロ芋のCompanyからニューシングルをリリース、ビデオで公開です。
15年ほど前、Ed Banger・フレンチエレクトロ全盛期に特大のクラブヒットを当てたものの、
アルバムを出すタイミングを完全に逃し、皆がほぼ忘れた頃に1st(例の曲は一応収録)を
リリースしてましたが(当時、一応聴いた)かなり長い事消えていた。ここ数年は単発曲を
自主リリースしており兆候はありましたが、まさかのカムバック。そして、普通に良いです。
今にして思うとCharli XCXとか当初の路線ってこの辺が礎だったと思うし、一応クラブ系の
出自っていうテイスト醸しつつ、その実かなりマスなエレクトロポップでアイコン的魅力を
押し出して行くっていうロールモデルの雛型だよな。90’s的なポップクイーンではなくてね、
あくまでエレクトロ以降のという事です。この子は少しアンニュイに持ってくからそれほど
角がキツくなくて良い。今回はThieves Like UsやVan She、カットコピー辺りを思わせる
あのサウンドをより今風にアップデートしたモノで、謎にJames Blakeも入ってて面白いね。
マーケ的にはハイパーに寄せるべきだろうと思うけど、今の素のままでいったからこそこの
レーベルなんだと思うし音色チョイスから何からあまりにも同世代を感じる。これよこれ。


King Hannah – A Well-Made Woman (Official Video)

昨年のEPが素晴らしかったリヴァプールのキング・ハンナが新曲を公開。アナウンスはまだ
ありませんが、恐らく次回作からの先行トラックと思われるかなり気合の入った一発でして、
スモーキーでダークな人力トリップホップ・ブルースロックのスタイルとどこまでもクールな
カリスマ歌唱はPJ Harvey的なところからキルズのアリソンつまりDead Weatherラインも。
あまりドゥームやゴシック系の雰囲気を入れずひたすら煙たいイメージでグラマラスなのに、
クラシックな趣にはならずあくまでもオルタナでモダンかつ土臭さまである上にムーディと
ひたすら矛盾した存在のグラム・フォーク。おまけにルックスも反則級とかなり凄い逸材で、
無名からUKのチャラめのレーベルじゃなくあのCity Slangが一発契約も頷ける真のレベチ。


Beach Fossils – This Year (Piano) Official Video

ビーチ・フォッシルズがジャズ・アレンジのセルフカバーアルバムをアナウンスし、一曲目を
公開です。(Piano)って書いてあるからレディヘの有名なジャズピアノ・カバーとかみたいに
所謂ピアノソロ的なものに近いのかと思ったら普通に歌ってるし、バンドセットでござった。
しかし、想像したモノよりかなり良くてそれっぽく割と本気。セレクトは2017年作の直近
LPから4曲、やはりというか突っ込み気味な以前の代名詞的楽曲群はあまり採用されてなく、
メロディアスなもの中心です。まだ全体像がわからないけど、今回みたいなスムーズジャズ
っぽいのばかりじゃなくて4ビート系のイナタイやつとかも入ってたら面白いけどどうかな。


Chelsea Wolfe – “Woodstock” (Joni Mitchell Cover)

チェルシー・ウルフがジョニミの有名曲をカバー。一応ゴスで売ってる人がジョニミの曲を
それもWoodstockなんて、フェスのイメージで行くと宿敵くらいの感じだと思うがそこの
ミスマッチが面白いのと、割と清廉なサウンドでグッドです。オリジナルに入っているあの
少し禍々しいバックコーラス(本人のだけど)をやってないだけで印象が変わってくるよね。


Nick Cave – Shyness Single – Cave Things

ニック・ケイヴのスポークンワード・トラックなんですが…音楽というよりテキストの内容
とても素晴らしくて、ちょっと話が飛び込んで来た。妻の話から馴れ初めのくだりがなんか
テーマに帰結する流れがすごいというか…hummingbird shynessて言葉初めて聞いたけど
彼の独自表現だよね。陰キャと陰キャが出会い、お互いのシャイネスが共鳴した奇跡です。

今週のLP/EPフルリリース

One Step Closer – This Place You Know (LP)

エモコアとハードコアパンクの中間くらいのバランスに調整したポストハードコア。コアを
使い過ぎて何を言ってるかわからねーと思うが…まあ最近の感じでいうとTouché Amoré
とかTurnstileあたりのラインかなと思いますが、後期アットザドライヴインっぽさもあり、
ストレートエッジだったりともう少し本気というかいイイ意味でおカタめな雰囲気があって、
熱量みなぎる溌剌としたアンサンブルがバシっと決まってる音楽性。でもどこかキャッチー
かつポップス然としているように聴こえる纏まり具合なのが面白くて、通常それはチャラさ
とのトレードオフになるハズなんだけど、不思議といいとこ取り出来ているのが凄いよね。
音が全然違うけど、稀有さの質としてはこないだのインディゴ・デ・ソウザとも近いものを
感じる。すごく間口が広くてわかりやすく響く形態をとっているんだけど、消費ポップスの
製品的なものに成り下がってなくて、その筋からの支持もちゃんと得られる強度を保ってる。
少しの調整違いでだけめちゃダサくなりかねないし、もちろんギリギリではあるんだけど…
ただ商売として成立させるにはそのギリギリを突くのがやはり醍醐味でもあるのでしょうな。


Nate Mercereau – SUNDAYS (LP)

カルロス・ニーニョがシンセやパーカツでこしらえた長尺のインプロの上にリアルタイムで
更にインプロをオーバーダブしていくという毎週日曜のライブストリームをやってたらしく、
その素材を再構築して形成したベーストラックにサックスやドラムのゲスト演奏をまたまた
インプロで加えていったというインプロ三段構えの成り立ちで、リアルジャムっぽさはなく
オーバーダブ感ありありなんだけど、実演奏がインプロありきなので不思議とエディット感
薄いという、面白サウンド。音楽性はネイチャーパンク・ニューエイジ・フリージャズって
とこで今年出てたカルロス・ニーニョ・アンド・フレンズの作品と近い肌触り。アヴァンな
趣もあるけど、基本は潮風を感じる柔らかく温暖なムードで、西海岸系店舗のBGMに最適。


Ada Lea – one hand on the steering wheel the other sewing a garden (LP)

出てきた頃より随分と音楽が確立されて、深みが増してる。インディバンド系のSSWとしか
形容できない、特別な要素や強烈な特色が全く無い音楽だからもう勝負は深みと歌心そして
メロディだけという事になるよね。全体聴いた感じでは、ロック寄りの楽曲はいっそ捨てて
可憐なエモ・フォークSSWみたいな感じを先鋭化させていった方が個人的にいい気がする。
路線からしてマーケ的にはBoy Genius構成員たちの影はどうしてもチラつくが、この子は
なんかキツ目に歌い込んでもクドくなりすぎない妙な清廉さ、瑞々しさがあるからちょっと
個性を押し出すロマン派というより冷やっとした空気と塩味の日常にふと訪れる一瞬の輝き
つまり雰囲気もの単館映画的な世界観で行けるし、そっちの方がキャラの立ったSSWより
お洒落ね。最初の先行M-1が本当にいい曲で年末のベストトラックに必ず入選するでしょう。
えっとリリースはどこかな…と、…またか。サドルクリークって本当にいいレーベルだね…。


Sufjan Stevens & Angelo De Augustine – A Beginner’s Mind (LP)

一応載せるか。今週リリースのありとあらゆる音楽の中で一番の注目作だろうしウチで紹介
するまでもないからそんなにコメントもないんですが、何だかんだ良いです。この人ってば
紛れもない天才だけど聴いてると疲れる枠の作品が多い中、Carrie & Lowellの路線に今回
他人のフレイヴァーが入ってプライヴェート感がいい意味でやや薄れたこともありとっても
聴き易い微スピリチュアル・アメリカン・ユートピアはジャケットのイメージ通り(?)ね。
映画を題材に曲にしちゃお〜、みたいなよくあるようなそうでも無いようなコンセプト作で
その辺のディテールは正直あまり興味ないから置いといて、音楽的には公式プレスリリース
記載にあるニューエイジの衣を纏ったサイモン&ガーファンクルというのがもう形容の全て。