GVVC Weekly – Week 162

Kristine Leschper – “Ribbon”

マザーズのクリスティン・レシュパーによるソロデビュー作から、新たな先行曲が公開です。
今回アルバムのディテールが同時にアナウンスされまして、より気合いの入ったリリースと
なっているようですね。この楽曲は一転、途中から弦楽隊やクラリネットも大々的に登場し
Mothersの頃から見せていた妙な暗さとセピア色のトーン等は継続されてますが、明らかに
音楽性・芸術性はより洗練、ブラッシュアップされワンランク上の完成度に到達。不思議と
バンド時代の方がSSW風というか今の方が開けた雰囲気で非常にコンテンポラリーな音像。
A.O. Gerberやマデリン・ケニーあたりのラインと近い、モダンでアカダミックな趣もある
シンセと室内楽を融合させたオルタナフォークで、ジュリア・ホルター的な方向性も見える。
マザーズのメンバーもバキバキ参加しており、実質的に後継プロジェクトといった感じです。


Chastity Belt – Fear (Official Music Video)

チャスティティ・ベルトがシングルをアナウンス、そちらからB面をビデオで先行公開です。
最近メンバーの課外活動が忙しかった彼女らですが、本体でカムバック。音楽性的には益々
純オルタナに磨きのかかったファズロックのスロウバーストバラッドになってましてエモい。
かなり深めに歪んでるけどそれほど重量を感じないサウンドでサラっとしたミックスがこの
傷だらけの歌唱を際立たせます。ファンタジー系のビデオが面白く、普通に似合ってるため
違和感がなくて、その『くさりかたびら』とか街で着ててもそんなに変じゃなくないですか。
グラフィックデザイナーMariko Yoshinoによるタイトルロゴがゴシック過ぎず良いですね。


Ghostly Kisses – Blackbirds (Lyrics Video)

年始にデビューアルバムを控えるゴーストリー・キッセズが今回3つ目となる先行曲を公開。
ちょっとクサ目のサッドコア進行で歌謡ギリギリのラインですが例によって歌唱がシックで
品位を保つことに成功しています。パーカッションとギターのヌメっとしたテクスチャーが
ものすごく良い音してまして、このコードと音響でストリングスまで入ってくるのにそれ程
大仰になり過ぎないサウンドメイクが流石で正直、楽曲自体やアレンジよりプロダクション
ありきの素晴らしさかと思います。ネオクラシカル・ポストサッドコア・アートポップって
ところでしょうか…ズバリの形容が出来ん独特の存在になって来てて進化が想像以上だね。


Land of Talk – Calming Night Partner [Official Video]

来週リリースされるランド・オブ・トークの新作EPから二つ目、最後の先行曲ビデオです。
淡々としつつも詩的で美しい世界観とスロウな高揚感の溢れる楽曲で、決してドリームには
振りすぎない90’sオルタナフォーク的なギターサウンドはドライとウェットの絶妙な塩梅で
どう転んでもシューゲイズとは言われないギリギリのラインに調整。それがこの求心力ある
SSWの語り口に添えられることでプラスに作用し、歌唱のリアリティに強度と信用を付与。
本当に派手さはないですが、滋味深い音楽だしまさしく『鑑賞』に耐えうる芸術作品ですね。

今週のLP/EPフルリリース

Matthias Lindermayr – Triptych (LP)

トランペットにドラム(パーカツ)、ギターという謎トリオ編成でコンテンポラリージャズ
ベースのエクスペリメンタル・ポストロック的な音響アプローチもしちゃうバンドサウンド。
低音担当が居ない(ローエンドはキック系だけ)為当然ボトムに量感がなく全てのパートが
細かいディテールの部分まで一切マスクされず繊細に響くようなクワイエットで静的な世界。
ギターもドラムもフレージングのチョイスがジャズ畑とは思えない箇所も多く、M-2とかは
本来ゴリゴリのマスロックバンドの楽曲をアコースティックカバーしてるかのような印象で、
圧はないけどダイナミックレンジが結構あり、演奏の熱量も意外と高いのであんまり流して
聴くような音楽ではない。雰囲気ジャズものとは決定的に違ってめちゃくちゃ格好いいです。
この『お吸い物に浮かんだエノキ』としか思えないジャケットも薄味という事で合ってる。


MUNYA – Voyage to Mars (LP)

とりあえず、プロパーの1stフルアルバムおめでとう。相も変わらずゴリラのお抱えであって、
特に他所に移籍したわけでもないけどデビュー曲から応援している身としても一区切りです。
内容はね、う〜ん…正直イマイチかな。勿論悪くはないし大きく変わっているわけではない。
ただまずシンセフォークを標榜しているのだから、4つ打ち方面は強化しないで欲しかったが
寧ろ増えてるよね。ヘロヘロサウンドとはいえインディダンス、シンセディスコ系に近接して
しまってはフォークの名が廃る。サウンド面ではシンセまみれなのにSSW、フォークなのが
キモだったはずで、そこにこのフレンチテイストと超舌足らずボーカルのアンニュイパワー、
DIYポイントで押し切る音楽性なのだから、トラックは縦を強調せずビートなしの曲も入れる
位でいい。それと単純に楽曲が出だしの頃より良くないってのもデカイね。今回の中から1曲
選べと言われても特に挙げられないくらい際立ったメロディがないから…デビュー作というか
最初のEP3枚まとめたセルフタイトルのアルバムに完全に負けちゃってる。先行M-4の時には
これも悪くないと言ったが、全編この路線とは思わなかったからね。とりあえずディスコ系を
捨てて欲しい。正直マーケ的なところなのか純然たる本人のクリエイティビティの意向なのか
分からないんだけど結果中庸になっちゃってるからマズいよ。方向性としてはダンスビートを
封印して名実ともにシンセフォークになるか、生バッグバンドを強化してサイケ度をアップし
メロディーズ・エコー・チェンバー路線もアリ。火星には行かんでいいから早よ戻って来い。


Tasha – Tell Me What You Miss The Most (LP)

前作は完全にEP尺だったんだけど、今回2ndアルバムってリリースに書いてるからあれが1st
だったんだね。今回もインタールード込みで全10曲かつ2分前半が2曲、3分ジャストが2曲と
超コンパクトな作り。先行のM-3がすっごく良くて期待してたけど、あれは完全によそ行きの
ラジオ意識リード曲だったみたいでLP全編の中では凄く浮いてます。全体的にレイドバック
強めかつリバーブも中途半端に深いためドリームフォークに近い趣もあり、バンド演奏もまた
中途半端にインテンシティがあって少しどっち付かずな印象になってるのがやや残念ですね。
とても伸びやかでナチュラルにワイドに開けた青空と白昼の無添加イメージが特色で面白い。
ただこの人に関してはもう少しガシっとプロデュースされたサウンドの方が活きる気がするし
ボーカルが相当ポテンシャルあるから多少作為的になってでもM-3的な方面で進んで欲しい。