ザ・ウェザー・ステイションの新作アルバムから二つ目の先行曲です。昨年作LPと対になる
静的なトラックで構成された今作、前回の曲はBlue期のジョニ・ミッチェル的なサウンドで
シックなピアノバラッドだったのですが、今回はザ・ピアノ弾き語り的なところからさらに
拡張し映画サントラ的風情のあるもので、クラリネットやアップライトベースで装飾された
デュエット楽曲。2ndと3rdの時期のアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズを少し慎ましく
身近に、現実的にしたようなウォームかつクラシカルな雰囲気になっていて素晴らしいです。
なお同じ週に本編がリリースとなったので、そちらはアルバムレビューのセクションで紹介。
Maria Chiara Argirò – Bonsai (Official Video)
ロンドンのマリア・キアラ・アーギロが5月にリリースする新作アルバムからの先行曲です。
一つ前の曲はフュージョン系のジャズ入ったWhite Poppyみたいな面白サウンドでしたが、
今回はテックハウスにニュージャズ入ってポストロック的な雰囲気もあるスケールのでかい
会心のトラック。一番にはケリー・リー・オーウェンスが浮かびますが、Gui Borattoとか
FieldとかのKompakt感に生音期のJaga Jazzistを追加したような音楽で、このバランスは
稀有かな。全編通してどういう構成になってるのか…レーベルはInnovative Leisureですね。
Tiberius b – Olivia (Official Video)
ティベリウス・Bのニューシングルはセシル・ビリーヴの共同プロデュースもあってなのか
かなり普段と印象が違って、90’sクラブポップの香りがするビートとライトなメロディに
スカスカめなサウンドで過去いちキャッチーな装い。ある種、破壊的というか、鬱屈して
ひねくれたアブストラクトなオルタナ・アヴァンR&Bバンドみたいな元来の音楽性と比べ
イメージが乖離し過ぎてて初見でちょっと不意打ちくらったのもあり、鮮烈に響きました。
ひたすら繰り返される「I’m not gonna kiss Olivia…」のフレーズが中毒性のある強度だね。
Amelia Moore – moves (Visualizer)
L.A.のオルタナ系R&Bポップスター、アメリア・ムーアの最新シングルが公開されました。
ちょっとメインストリームギリギリのラインであり、BENEEとかMaisie Petersあたりと
自分の中ではなんか同じ落としどころというか、つまりほぼアウト側なんですがこの曲は
ヴァースのフロウからコーラスのスキャットの流れだったり、節回しが気に入ったんです。
変な話これ曲はそのままでサウンドをもう少しアブストラクトにすればWetのアルバムに
入ってておかしくないというか…インディが最もポップスに近接した時のソレと近いかな。
SALES – Moving by Backwards
セイルズが昨年10月のものに続くニューシングルを公開です。謎にTikTokでブレイクという
展開からの平常運行というか、ほんと変わらないですよね。それもベースの部分はそのまま
サウンドが豪華になったり、洗練されていったりとかいった方面の進化があるワケでもなく
文字通りリアルに一切変化がない。どこか寂しげなDIYセンチメンタル宅録ポップを地で行く
このスタイル、1stの曲とすら区別がつかないし、ここまでの潔さはなかなかないですわよ。
Big Thief – “Simulation Swarm” (Stephen Colbert)
ビッグ・シーフがコルベアにリモート出演、最新作からの楽曲をリヴィングルーム・ライブ。
凄くデッドな音響で、全体の縦の合致ぶりとダイナミクスの変遷がダイレクトに伝わるんで
より一層このバンドの凄さがわかる。本当えげつないですよ。ハンドクラップがクラップに
聴こえないっていうのがどういうことか考えてみ。リズムがイーブンっていうわけではなく、
こうフリーでエイドリアンレンカーが突っ込んで行くとこは周りも完全に追従しますからね。
走ったり緩んだりしてるんだけど、生き物みたいに全員が同じ動きするからブレないんです。
今週のLP/EPフルリリース
Kristine Leschper – Opening, Or Closing Of A Door (LP)
マザーズって1st凄く好きだったけど、その後は正直ちょっと重くなり過ぎたなと感じてた。
一番いいなと思う部分はボーカルだったわけで、その彼女のソロ名義となると俄然期待する。
音楽性的に一曲シングルでどうこうというタイプではないから先行曲を公開してく段階では
それほど際立つ印象は持ってなかったけど全体を聴くと予想以上で、これは素晴らしい作品。
分類的にはSSW版のアートロック、アヴァンポップになるかな。かなりモダン系のシンセと
一方で対極にある筈のオーセンティックでクラシカルな管弦楽隊の馴染み具合が実に自然で、
冒頭のM1~M2がハイライト。その後は徐々にソロ作品っぽさが強くなり、バンド時代から
シグネチャーともいえるあのセピアがかった色彩でクラウト風味の瞑想反復ビートだったり
アンビエントフォークだったりと、割と振り幅は広く展開していく。基本的にキリスト教を
強く感じさせる世界観で、全体的には整合性の取れた端正な仕上がり。どんな人なんだろう。
The Weather Station – How Is It That I Should Look At The Stars (LP)
例の大傑作アルバムからわずか1年で発表された、対となるような別路線の姉妹作とはいえ
正直今回もここまで素晴らしいとは嬉しい誤算。今、本当に脂が乗っている時期なんだなと
伝わってくる充実したソングライティング。基本はジョニミをもうちょこっと神経質にした
ピアノ・バラッドですが、この人の十八番である管弦楽アレンジをあくまでも慎ましやかに
そっと添える事で一気に彩り豊かなものになっていて、冒頭のビデオ紹介でも述べたように
アントニーの[Crying Light]を柔和にライトにしたような静と滋味の深いアートポップです。
熱心に聴き始めたのは2017年のセルフタイトルからなんだけど、その辺から一気に焦点が
定まってどんどん解像度上がっていくこの勢いが本当すごい。どこまで行くんでしょうかね。
Dao Strom – Redux (LP)
ポートランドでこの音楽性ってもうグルーパーを引き合いに出されるのは宿命かなと思うが、
もはや彼女がシューゲイズにおけるMBV級の存在である事を考えるとその必要も無い程この
ギターアンビエントフォークという音楽は一般化しているのかも。で、そういう中でも特に
この作品のサウンドは良くも悪くももっとモダンな音作りで、近年のデジタルリバーブ等も
ガチガチに使っていると思われ、そのものズバリなシマーとかオクターヴ付与ディレイとか
単機で完結してるっぽいエフェクトが高解像度で展開されており、そういった意味では全然
グルーパーとベクトル違うというオチです。メロディも鮮明で瑞々しく取っつきやすい旋律、
奇を衒った部分もなく、クリスタルクリアーなドリームポップとも言える。欲を言えばまあ
もう少し幅と深みが欲しく、明らかに発展途上だけど、明瞭な路線って新しいなと思ったし
バリアントとしてこういう音楽がもっとオーバーグラウンド化する可能性を感じたんですね。
なお、言うまでも無くこの手合いがほとんど女性アーティストなのは、男声でしかも残響を
盛りまくるとドローンの低音とバッティング干渉し過ぎてこの音場を構成できないからです。