GVVC Weekly – Week 285

James Blake – Thrown Around

ジェイムズ・ブレイクが自主レーベルからのリリースに切り替え、正真正銘のインディ・ミュージシャンとしての新曲をリリースしビデオも公開。
『TikTokでフランクオーシャンのカバー曲がバズったけど俺にもフランクオーシャンにも一銭も入らなかった件』など以前からいろいろと業界の金回り、システムについて思うところを頻繁に発信し、新興DtoCプラットフォームのローンチにも積極的に参画したりと予測できたことではありますが、ホント相当嫌気してたんでしょうね。
内容の方もここで変えてくるのは当然ながら、楽曲はある種UKのダンス系ロックサウンドというかケミブラやハピマン的な方向性になっており、片やボーカルはいつもの彼という完全なる新機軸でこれはこれで非常に面白いです。映像の方も気合の入ったオモシロ路線で、ここからどんどんはっちゃけて行って欲しいな。


Max Richter – Movement, Before All Flowers

マックス・リヒターがサントラやスコア関連でない純然たるプロパー新作のアルバムをアナウンスし先行曲を公開。
もう一聴してレフトフィールドとかポストクラシカルとかそういう枠組みには恐れ多くて含められない圧倒的な音楽の質と間口の広さの映画音楽的アンビエント、そりゃあ現代を代表する「作曲家・コンポーザー」の巨匠、この地位にもなりますわと納得の内容です。格が違い過ぎるよ。
特に今回はちょっとコンテンポラリーや特定のコンセプトに振り切っていない馴染み易さのある雰囲気で初期のオリジナル数作に通じるムードあり。本人的にも今作は当初から探究している不変のテーマを共有し、現在の社会状況や環境を経た別視点からの初期作品アナザー・ルックとも言える…的なコメントしてます。


Sycco – Swarm

ブリスベンのSSWシッコがFuture Classicからニューシングルをリリースしビデオ公開。
90’s風のR&Bにごくごく微量のサイケを加えた宅録ポップでレーベル的にもボトムは少し太めのダンス対応サウンド。何はともあれバツグンの歌心が発揮された節回しが素晴らしく、しょうもない失恋系の歌詞もこれはこれでアリ。とにかくコーラスパートがかなり傑出してるので、もう少し引っ張ってもいいよと思えるところで2分半で終了になるのも後ろ髪引かれる感じで乙なんじゃない。


COWBOY BOY – Great Scott

男女デュオバンド、カウボーイ・ボーイが8月にリリースする新作アルバムからオープニングトラックを先行公開。
微かにエモ要素も感じるオルタナ系のパワーポップはオールドスクールな雰囲気とほんと最近のモダンな雑食パンクのフィーリングどちらも感じさせる絶妙な音楽性で、歌を全面に据えてるもののメロディ自体はそんなにクドくない。しかしこの曲に関しては最大のパンチはその歌詞なんです。
ボストンのオールストンにあったライブハウス老舗(コロナ禍で閉店)グレート・スコットで「ソウルメイトに出会うことはない」というネット上の書き込みに対して「いや私は出会ったけど?」とエアリプライをかますラブソング的な内容なのですが、いちいち歌詞がド直球のアツい言葉で文字にするのも恥ずかしいようなセリフ並びます。でもその語り口があまりにも真摯かつサウンドもこれなもんで実に胸を打つ仕上がりで、字幕入ってるリリックビデオなのもあり正直、初見で泣かせにきますね。

今週のLP/EPフルリリース

The Marías – Submarine (LP)

いや、気にはなってたけど少しメインストリーム寄りの仕上がりかなと期待してなかったぶん、こんなに程よいドリームポップというか、アブストラクト、アンビエントフォークの風情も絶妙に盛り込んだ上質極まりない内容だったとは恐れ入った。
と、サウンドはまぁそんな感じなんだけど、何と言っても歌ね。英語と西語と行き来する悠然としたメロディは奥行きと品があるのに、プエルトリカンルーツのカリブの香りが入ってて、湿度の高い海辺の哀愁がスパニッシュの響きとともに最高のスパイスになってるのが唯一無二の音楽性。これがまあR&Bとかもっと明確にポップスならまだしも、こういうアレンジメントの方向性と同居してるのは貴重だよ。
珍しく、明らかに後半の方が良いという面白い構成のアルバム。前半のちょっとだけダンスポップっぽい曲はまじでいらねえなあと思う。


IDAHO – Lapse (LP)

オリジナル新作アルバムとしては13年ぶりのアイダホ、その昔& recordsさんが一生懸命日本盤CDをリリースしていたのが懐かしいね。コアメンバーのジェフさん以外は相方の急逝などもあり、いろいろ変遷してきているが今現在は写真見る限り二人組みたいです。
一応スロウコア大御所として名が通ってると思うし、一聴して非常に地味というかどこまでも「いぶし銀」路線の音楽なので勘違いされやすいがカントリーやサイケなどは入ってなくてフォークも少ない、純然たるオルタナティブとポストHCをそのまま枯れさせていった方向性なのでオッサン臭さは実はそんなにない。個人的に今作はかなり好みで、正直全盛期よりキャッチーにすら感じるのは録りとミックスか、サウンドの質感が生々しくちゃんとフルのバンドっぽい仕上がりで曲云々というより展開されるアンサンブルが強度高く、2人による個人多重録音のはずではあるがそのような意識なく聴ける。
なんつーか、土台もろスロウコアというよりMODEST MOUSEとかのザ・USインディや最近のだとNap Eyesとか、そういったものが渋くなってった先の雰囲気かな。


Ezra Feinberg – Soft Power (LP)

CITAYの人とは知らず、1stをヴァイナルで持っていてかなり聴くんだけどその頃よりもだいぶ豪華なサウンドに進化していて、自主レーベルでリリースしていたと思ったら今作からTONAL UNIONということでなるほど納得の内容。
Mary LatiimoreにJefre Cantu-Ledesma、Bing & Ruthの人っちゅう客演リストがとんでもなくしっくり来る、まさにそんな感じでTNTのトータスにこの辺の要素を混ぜ、ラウンジやアンビエント感をアップさせたような音楽でBGMにも能動リスニングにもどちらもイケる程よい緩さと楽曲性、テンションのモダンミュージック。
更にはクラウトからニューエイジ、生音路線に進化したエレクトロニカの雰囲気なんかもあり、ジャズ要素の部分はアフロ成分が全くない為シカゴ系の香りはあれどインターナショナルアンセム周辺が提示してるモノとは一切競合しないという、めちゃくちゃごった煮なんですけど洗練されていてミニマルでオーガニックで、丸かぶりの界隈はなく、でも明確に需要のありそうな今っぽい素晴らしいバランスの作品です。ここまで行くと純粋なアンビエントではないと思うけど、広義のアンビエントでは今年一番かもしれないですね。