今年最初のインディ・ラジオヒットが出てしまいました。南ア、ケープタウン出身のSSW
アリス・フィービー・ルゥの最新シングルです。一年前のアルバムはちょっと聴いてみた
記憶があるけど印象に残ってない。確かもっとSSW然とした音楽性だったはずですが今回
狙ったのかどうかGirl In Redの例の曲をブラッシュアップしたような方向性で攻めて来た。
まず30秒イントロ、グリスでシメての一時静止からこの歌唱インで完全に勝負ありです。
後半に入ってくる高速アルペジエイターも螺旋スパイラルの高揚感を煽っててスバラシイ。
フィルんとこ一瞬ベースと鉄琴がオクターブでユニゾンするのもイイね。細かいところの
アレンジがバチッとハマったミラクルが起きてるのよ。確かにありがちなサウンドですし、
聴いたことないような音楽では全くない。後続のアルバムが名盤になるイメージもわかない。
でもなんか欧州サッカーとかで、そんなに有名じゃない選手からたまたま飛び出した異様な
スーパープレーを観たような気持ちになるんです。箱でレコードでかかるのを聴きたいな。
アムステルダムでファイヤーダンスやってたとかわけのわからない経歴があって、音楽は
ベルリンで活動開始したようです。あまり典型的な宅録の人じゃなく、そこもいいのかな。
orion sun – lightning [official video]
今月末にMon + Popからデビューアルバムをリリースするオリオン・サンのリードシングル。
まさにインディR&Bという感じのプロダクションなんですが、Blood Orangeがやるような
アプローチとはまた違い、もっと丸く、くぐもったアトモスフェリックな音像なんですよね。
ドリームポップだとかシューゲイズだとかっていうワードも下手したらタグ付けされかねない
雰囲気すらあるし、本当にわずかなところなんですけど、サウンドレイヤーの中に逆回転とか
スローアタックみたいなクリーンギターのコードが仕込まれてて、それが実は相当効いてる。
あとビデオのこのステージというか会場の絵面がめちゃくちゃ格好いいね。客席の方込みで。
前に出てた残り2つの先行曲はよりギターオリエンテッドな仕上がりで、もっと”こっち側”。
Ashe – Moral of the Story (Live)
昨年作の自宅?ライブヴァージョンですが、オリジナルより熱がリアルに伝わってくる。
相当すごい歌詞なんだけど、一体どんなクソ野郎に引っかかったんですかね彼女は。
弁護士まで出てきてるレベルなので若気の至りで済まされない何かがあったんでしょう。
単なるピアノ弾き語りでしかないんですが、いい意味で生々しくムーヴィングな音楽で、
音源と天地差です。ファルセット張り上げるとこでおもっきしボーカル割れてるけどね。
原曲もぜひ聴いてみてください、一年越しでわざわざ出したのがよくわかると思いますよ。
Girlpool – Like I’m Winning It
ガールプールの新曲ビデオです。元々、かなり雑多な要素を孕んだ音楽性ではありましたが、
今回これは特に明確な新機軸といえるんではないでしょうか。少しだけゴシックなダーク系
エレクトロニック・ポップという感じで、かと言って4AD的ではなくSacred Bonesでもなく
しっくりくる落とし所の例えが思いつかない。超ライトなフィーヴァーレイってところかな?
これプロダクションがもっと鋭いダブステだったりトリップホップ路線の冷た~い感じなら
ありがちなんだが、妙にインチキくさいというかインディの音なのが逆に独自性になってる。
Kaitlyn Aurelia Smith – Expanding Electricity (Single Edit)
ケイトリン・オーレリア・ スミスの3rdアルバムから最初の先行トラックです。前作で
一気に完成度がアップした印象ですが、そこからさらには飛躍せず少し置きに行った印象。
ただ、相変わらず聴き易くていいですね。こういうモジュラーシンセSSW的な作家って
それなりにいますが、リズムトラックが入ってないモノの中ではこの人は凄くキャッチー。
今回でいうと木琴的なサウンドが事実上ビートの役割してるのと、オリエンタルな音階を
かなり使ってくるメロディで、馴染みやすいですし音が丸い。突き放してなく温かいのよ。
Anna Burch – Tell Me What’s True [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
アンナ・バーチの4月リリース予定アルバムから3つ目の先行トラックもビデオで公開です。
今回もあったか~い音色で、ほんと柔らかい露光と角の取れた丸いイメージに溢れており
凄くイイけど、ここまで朗らかで穏やかなサウンドには逆になんか身構えてしまう部分も
あるというのは、世の中のギスギスに毒されすぎでしょうか…?ちなみにビデオの方は
バーでフェンダーローズを弾き語りするという内容ですが、導入でSM57をマイクチェック
するんだけど、そこではリアル音響なのにいざ歌始まるとオフマイクでこんな録音の聴こえ
するわけないんで、ズッコケそうになる。野暮かもしれませんがマイクチェックのシーンで
生々しいとそこでリアル感覚のスイッチ入っちゃうわけだからさ、MV視聴モードと違うの。
Deradoorian – “Saturnine Night”
アンバーと共にDirty Projectorsの黄金期を支えたエンジェル・デラドゥーリアンは数年間
ソロでのリリースを続けていましたが、ついにAnti-からの本気アルバムが出るようです。
ソロを始めた最初期はルーツの中東系ニュアンスを孕んだオリエンタルな作風だったりして
その後もあまり音楽性のイメージは固まっていませんでしたが、それにしても今回は一気に
思い切ってクラウトロックに変えてきた。無彩色な感じは継続で、あまりメロディアスには
しないぞっていう意思を感じますよね。悪くないけど、別に他でも見つかる音楽ではある。
でもこういう女性ボーカルで、このルックスでっていうとこ込みだと物珍しさはあるのかな。
Nap Eyes – Mystery Calling (Official Video)
Nap Eyesの今月末リリース新作アルバムから、3つ目の先行曲ビデオが到着しました。
ここまでの感じでもう、今回のアルバムは間違いなく良作だろうね。基本はUSオルカン、
インディフォークで、特にPhosphorescentとかのイメージに近い世界観になってきてる。
一聴いぶし銀な音楽性に感じるかもしれないけど存外瑞々しくて、ミニマルな楽曲構成を
独白風の渋いボーカルが引っ張る中、空間系の小技が効いたギターフレーズが随所に挿入と、
全体を大きく捉えて眺めると相当カッコいいサウンドしてます。映像もいい趣味してるよ。
Tenci – “Serpent” [official video]
シカゴの天使が再発リリースしたダブルAサイドのシングルから片割れがビデオで登場。
サムネ見てYohuna的なものを想像したらあまりルックスからイメージする音楽ではなく、
少し土や乾いた風の香りをさせつつモダンに仕上げたインディ系のアシッドフォーク。
かなりソロミュージシャンの風情がありますが一応バンドのようで、この作品はあの
スペンサー・ラドクリフがプロデュース、ミックスしリードギターでも参加しています。
後半に挿入される不協和音系のブレイクも上手い具合にフィットしてて、効果的かなと。
映像もいいけど、2:41くらいから一瞬映る車がクソダサくね?テンシってネーミングに
ルックスと音楽性の組み合わせ、Earthquake / Serpentってタイトルとか諸々込みで
ピックアップしましたが、じわじわちょっと気になるというか、アルバムで聴いてみたい。
Sharon Van Etten – “Staring At A Mountain”
シャロン・ヴァン・エッテンはThe OAでバリバリ女優も演ったことで有名ですが今度は
映画にも出るようです。主役のティーネイジャー二人の片方の母親役ってことなんですが
出てるだけじゃななく、サントラ楽曲も手掛けており…、というかあんまりプロパー作の
トラックと大差ない感じです。ここ最近のゴツ目な路線ではないものの共通しているのは
このドライブかかったようなドラムの音、なんとかならんのかな。個人的に好きじゃない。
今週のLPフルリリース
JFDR – New Dreams (LP)
ジャケットこれ前髪のトコどうなってんのか、ワックスってわけじゃなくグラフィックで
加工されてるよね。この微妙~な処理がでも、なんかイイ味出してるような気もします。
線の細い弾き語りスタイルと暗過ぎないトリップ・ホップが混在したSSWって感じでして
先行曲の時も言ったけど訛りがキツいし、いかにもなアイスランドっぽさは確かにある。
ただ思ったほど幽玄じゃないというか、クセが強くなくてクリスタル・クリアーな清冽さが
感じられるんですよね。メロディも塩味だし、ビートも深くなくて全体的にアッサリした音。
この辺のさじ加減が正直どこまで意図されたものなのかはわからないが、程々に趣味のいい
現代美術やインテリア系のショップで流しとく、置いとくのにピッタリな装いになってます。
dogeg – Melee (LP)
昨年から先行シングルをめちゃくちゃの激推ししていたドッグレッグのアルバムが遂に。
当然ダサいとこもあって、全てがイイわけじゃないけどこのエネルギーには正直こっちも
引っ張られるから聴いてて健康にいいんだわ。ポストHCベースのミッドウエスト・エモを
完全に正当後継してるんだけど、そのまんまってよりも順張りに直線的なところがあって、
いい意味でバカっぽい。モックオレンジ的なギター主導のリズムギミックは入れてくるけど
演奏にすごくメリハリがあって、前のめりな推進力を削がない形で仕込んでるんですよね。
この音楽性って多分西側だとこうはならなくて、デトロイトなのも関係してそうで面白いな。
Horse Lords – The Common Task (LP)
これはマスロックってより完全にプログレだと思うが、アンサブルの強度が物凄くてもう
どうしても体が動きます。超絶にドライな質感で、目の前で演奏してるような距離感の音は
多国籍トライバルサイケロック。でもってメンバーのルックスはインテリポストHC系なの。
ちょっと出来過ぎにクールなバランス感覚だと思うし、ライブが観たいっす。
・Give me little more.と共に松本のDIYインディ文化を支える名店MARKING RECORDSが
遂にオンラインショップをオープンしたみたいです。大推薦!商品は徐々に追加とのことで、
3月いっぱいは8,000円で送料無料サービスみたいです。正直この規模感でそれがどんだけ
逐語的に大サービスであるか、大人ならわかると思います。当たり前のことなんですが、
利用を完全に回避するのは難しいとはいえ、インディが好きとか言っておきながらアマゾンや
コンビニをはじめ、そもそも大資本のストアであまり買い物するもんじゃありませんからね。
少なくともレコードや嗜好品、可処分所得は全てスモールビジネスに還元しましょ、お互い。